理事長挨拶(2023)

2023年1月4日
桒原 聡文 (Toshinori Kuwahara) 東北大学准教授

UNISECの皆様へ

桒原 聡文 (Toshinori Kuwahara)

皆様,明けましておめでとうございます.

兎年の2023年が始まりました.皆様が安らかな気持ちで健康に新年を迎えられましたことを,そして新たな目標と熱い想いを胸に,新年をスタートされましたことを,切にお祈り申し上げております.新年のご挨拶をさせていただきます.

未だCOVID-19に因る困難が続く中ではございますが,UNISECは創意工夫の下,2022年も引き続き活発に活動に取り組み,大変実り多い一年とすることができました.ご関係の皆様のご尽力に,深く御礼申し上げます.

最初に,主要なイベントの実施状況についてご報告させていただきたいと思います.
まず,オンラインでの開催となりましたが,UNISEC総会とUNISEC Takumi Conferenceを7月に実施致しました.8月には本年も能代宇宙イベント(共催)が現地開催されました.その後はコロナの状況も回復に向かい,9月にはコロナ禍が始まって以来初めて米国でのARLISSの開催が実現し,12月にはUNISECワークショップを帝京大学宇都宮キャンパスにてオンサイト(部分的にハイブリッド)で開催させていただきました.
更にUNISEC Globalの活動もご紹介させていただきますと,2020年9月より開始致しましたUNISEC Global Virtual Meetingを毎月実施すると共に,10月にはトルコ・イスタンブールで開催した11th Nano-Satellite Symposiumと第8回Mission Idea Contestに係るPreMIC8 Workshopに合わせて,第8回の対面でのUNISEC Global Meetingも実施
致しました.

また,UNISECの事業として,HEPTA-SAT トレーニングプログラム,CLTP(CanSat Leader Training Program)プログラム,Road-to-SPACE (RTS) Club,UNISEC Space Job Fair,UNISEC アカデミーの運営も実施致しました.HEPTA-SATトレーニングプログラムについては,トレーニングキットの販売や,複数の出張・オンライン講義が実施されました.CLTPプログラムについては,8月に日本大学船橋キャンパスとAOTS研修センターにて第11回を開催いたしました.Road-to-SPACE Club については,定期的なメールマガジンの発行を継続しています.11月にはUNISEC Space Job Fair 2022をX-NIHONBASHI Towerにて実施いたしました.そして, UNISEC アカデミーについては,1月に第二弾の全14講義の実施を完了し,その後は第三弾の準備を進めつつ,見逃し配信のご希望に個別に対応をさせていただいております.

更に,複数の受託事業にも継続的・精力的に取り組みました.UNISECはJAXAと『国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟からの超小型衛星放出を用いた学術利用及び人材育成に係る包括的な連携協力の推進に関する協定』を2021年4月に締結致しており,継続的にその取り組みに力を入れています.これを基に,同じくJAXAからの受託事業として,(1) 国際宇宙教育事業であるKiboCUBEアカデミー事業と,(2) JAXAが有償で提供する「きぼう」からの超小型衛星放出機会を利用した,国内大学向け超小型衛星放出機会の提供事業J-CUBEに取り組んでいます.また,同じくJAXAより「2022年度超小型衛星のミッション成功率向上に関わる調査及び検討」業務を受託し,超小型衛星のミッションアシュアランスハンドブックの追加改定,同ハンドブックの普及活動,アンケート調査,超小型衛星成功率向上ロードマップの策定,情報共有サイトの実装などに取り組んできております.また,これまでのUNISECにおける宇宙教育教材アセットに基づき,株式会社アクセルスペース様と「UNISEC-AXELSPACE Aerospace Engineering Program」の開発に取り組み,第一期生へのプログラムを10月に開始し,現在も継続実施中です.

このように,UNISECは2022年も,1年間を通して非常に高い活動レベルを維持できたと思います.特に現地開催の実現には,ご担当の教員の皆様に加え,会場やホスト校の皆様の多大なご尽力があって実現したものです.この場をかりて,ご尽力,ご協力いただきましたご関係の皆様に,改めて深く御礼申し上げます.

一方,革新的衛星技術実証プログラム3号機・イプシロンロケット6号機の打上げが失敗に終わったことは大変残念でありました.開発に携わられたご関係の皆様のお気持ちをお察しします.ただ,私たちはここで立ち止まるわけにはいきません.こういう時だからこそ,尚一層日本の宇宙開発を力強く支えていけるよう,気持ちを一つにできたらと思います.

ここで少し,日本全体,そして世界の動きについても目を向けてみましょう.

昨年3月に大分県で現地開催が予定されていた第33回 International Symposium on Space Technology and Science (ISTS)は,COVID-19の影響で残念ながらオンラインでの開催となりましたが,第34回ISTS及び12th Nano-Satellite Symposiumは今年の6月に久留米で現地開催される運びとなっています.

昨年11月16日には,Artemis 1 ミッションにおいて,米国の新しい打上ロケットSLS初号機によってOrion宇宙船が月周回軌道に打上げられました.スペースシャトルで使用されていたエンジンを再利用する形での打上げとなった今回のミッションは大変感慨深く,新しい有人宇宙開発史の幕開けとなったと言っても過言ではありません.そして,Artemis 1の打上げには日本からの超小型深宇宙探査機EQUULEUSと月面着陸の技術実証目的CubeSat衛星OMOTENASHIが相乗り致しました.それぞれ挑戦的なミッションに挑んでおり,特にEQUULEUSは水レジストジェット小型推進システムを用いた軌道変換や,月面の近接撮像に成功しています.上述の11月に開催されたUNISECワークショップでは,これらの業績を称え,東京大学中須賀船瀬研究室にUNISAS賞(UNISAS:UNISEC Alumni Association)が贈られています.尚,Orion宇宙船はその後約26日間の航行の後,12月11日に地球への帰還に成功しています.

そして12 月11日には,日本発NewSpaceである株式会社ispaceの月面着陸ミッションHAKUTO-Rの初号機がSpaceX社のFalcon 9ロケットで打ち上げられたことも記憶に新しいところです.近い将来,多数の宇宙機が地球と月の間の宇宙空間を頻繁に往来するであろうことの象徴であったと思っています.

世界を見渡しますと,これら以外にも多数の月探査・火星探査・深宇宙探査ミッションが現在進行形で遂行されています.特に,CubeSatクラスの超小型宇宙機が,月・惑星探査において重要な役割を果たし始めたことが,2022年の大きな特徴であったと言えるかと思います.即ち,超小型宇宙機の技術水準が最先端の領域にまで到達したということです.

また,現在日本の宇宙飛行士選抜が進行していることについても言及させていただきたいと思います.ISSの2030年までの運用継続の方針が示されると共に,Artemisミッションにおいて有人月面探査計画が進行している中で,宇宙飛行士への期待も益々大きくなっていると言えるかと思います.私たちは新しい有人宇宙開発史の始まりに立ち会っているのです.

最後に,2023年について少し先取りしてみたいと思います.

上述したUNISECのイベント,事業については2023年につきましても全て継続実施の計画となっております.UNISEC Takumi Conferenceも実施の予定であり,本年についてもUNISEC挑戦賞の公募を行う予定ですので,奮ってご応募(自薦・他薦)いただけますと幸いです.また,延期もしくはオンライン開催となっていた国際会議についても現地開催が再開されるものが増えてくることが期待されます.COVID-19の影響が緩和し,皆様の活発な交流が加速することを祈っております.

そしてUNISECは2023年2月14日をもちまして,NPO法人となってから20周年を迎えます.会員の皆様のこれまでの並々ならぬご尽力に,改めまして深く感謝申し上げます.この重要な節目に理事長を務めさせていただいておりますことの重みを誠心誠意噛みしめますと共に,とても光栄に思っております.春先になるかと思いますが,20周年記念行事のご案内をさせていただきたく考えております.皆様には是非奮ってご参加賜れますようお願い申し上げます.

ここで改めて,UNISECの価値は「学生たちの元気さと熱気が,参加者を魅了し続けているかどうか」に依る,という初代理事長の八坂教授のお言葉を反芻したいと思います.大変ありがたいことに,昨年のUNISECワークショップはオンサイトでの開催が実現し,100名を超える会員の皆様に対面でお会いすることができました.学生代表の皆様には創意工夫を凝らして,計画と実施にご尽力いただきました.限られた時間をなんとか最大限に活かせるように,私自身はSNSでの情報発信と呼びかけに力を入れるなど試みてみたところです.その甲斐もあってか,ワークショップでは会員の皆様の非常に活気のある交流の様子を目にすることができましたし,学生/教員に関わらず,参加者の気持ちが一つになったように感じました.是非この熱気を大切にしていただきまして,各団体及び個人での普段の活動に取り組んでいただけますと大変幸いです.

昨年のご挨拶の繰り返しとなりますが,UNISECは,”やりたい”が見つかる場所,やりたい事ができる場所,将来に手が届く場所,夢が生まれ実現する場所,そういう存在でありたいと思います.『宇宙文化圏』の創成がいよいよ始まります.”宇宙文化圏”を辞書で引いても対応する英単語がございませんでしたので,遊び心で ”space(宇宙)” と ”ethnosphere (文化圏)” を併せて ”spacethnosphere” (スペース・ソノスフィア) という造語を考えてみたところです.新しいことを生み出していきましょう.UNISECは『宇宙文化圏/Spacethnosphere』の実現に向けた鍵を握っていると考えています.皆様と共に,その発展の道を歩めることを大変嬉しく思っております.

簡単ではございますが,2023年の年始のご挨拶とさせていただきます.

皆様の健康と安全,そして社会の平穏を心からお祈り申し上げております.
本年も何卒宜しくお願い申し上げます.