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宇宙ビジネスに係る新たな法整備は急務
HEPTA-Satトレーニングで意識できた「現実に即したルールメイキング」

受講者:高取 由弥子さん
(涼和綜合法律事務所 弁護士)

近年の宇宙ビジネスの拡大に伴って、各種の具体的な宇宙活動に関する法整備も喫緊の課題となっています。
高取由弥子弁護士(以下、高取さん)は、内閣府宇宙政策委員会の臨時委員(宇宙活動法基準・安全小委員会の委員)を務め、国際連合(国連)の宇宙空間平和利用委員会(UNCOPUOS) にも、UNISEC-Globalの代表団の一員として、オブザーバー参加しています。
宇宙空間とその利用に関する国際法・国内法の整備に、弁護士の立場から取り組む超多忙な中で時間を作り、HEPTA-Satトレーニングを受講しました。

受講者:高取 由弥子さん (涼和綜合法律事務所 弁護士)

■弁護士にこそ受けてほしい 国際的評価も高いUNISECの宇宙教育プログラム

―なぜ、弁護士の高取さんがHEPTA-Satトレーニングを受けようと思ったのでしょうか。

高取さん「宇宙事故や損害賠償に関する法整備に携わっていると、机上の概要的な知識だけは、現実問題に即した具体的な検討が不十分となりうることが問題意識としてありました。

HEPTA-Satトレーニングは、基本的な知識を座学で学ぶだけでなく、設計・開発・試験・運⽤といった一連のプロセスをハンズオントレーニングによって体感的・網羅的に習得できそうな点に魅力を感じました。

実際に受講してみると、プログラミング開発環境の構築や電力サブシステム、コマンド・データ処理、通信と地上局サブシステム、構造システムなどのシステム設計と試験に至るまで、手を動かし考えながら実感を伴った知識が得られたことは座学では得られない大きな学びでした。

トレーニングの中では、装置やシステムは必ず壊れることを前提とし、機器の一部に故障や破壊が生じても、装置全体が危険な作動状態や致命的な破壊に陥らないような仕組みを、システムや構造に組み込んだ設計手法、いわゆるフェイルセーフ(fail safe)の考え方を繰り返し説明されますが、実際にどのように活かされているのかを体験できたことも印象的に残っています。」

―HEPTA-Satトレーニングと法律は、一見関係がないように思えますが?

高取さん「弁護士の立場からは、例えば軌道上で衛星同士の衝突事故が起きて損害賠償責任を問う場合、過失の有無が大きな論点になります。その際に、現実的で納得感がある主張を展開するためには、人工衛星の構造やシステム安全、運用や作動に関する具体的なイメージが不可欠です。

実際に実機を模した1Uの超小型衛星を組み立てて運用したことで、特にシステム安全、熱設計、電源系の構造などの難しさを実感し、何を過失とすべきかだけでなく、過失と断定するのは現実的ではないこともあると気づきました。

これは、企業を法務面でサポートする際にも必要な考え方ですし、現実に即した法整備という面でも意識が更に高まりました。」

―技術者ではない弁護士にとって、HEPTA-Satトレーニングは「難しすぎるのでは?」と思う方もいらっしゃるかと思います。

高取さん「文系出身でプログラミングの知識のない私でも、難しすぎることはありませんでした。むしろ、予備知識のない人でも衛星の設計から運用までの一連の流れを理解できるように、教材自体がよく練られて作られたトレーニングだと思います。

UNISECは長きにわたって宇宙教育をグローバルに展開し、宇宙業界で活躍できる人材育成に尽力してきました。私はUNISEC-Globalの代表団の一員としてUNCOPUOSに参加していますが、UNCOPUOSに加盟承認されている約50のオブザーバー団体の1つとして日本からは唯一UNISEC-Globalが選ばれたのは、HEPTA-Satトレーニングをはじめとする宇宙教育が国際的に評価された結果だと思っています。

HEPTA-Satトレーニングの良さを実感した私が、その経験を活かして活動の幅を広げることによって『このトレーニングが宇宙ビジネスに携わる弁護士に役立つトレーニングである』と理解していただけるのでは、と期待しています。」

■様々な法令が複雑に絡み合う宇宙ビジネス

―現段階で、宇宙活動と法律はどのような関係があるのでしょうか。

高取さん「宇宙空間とその平和的利用に関する国際法としては、UNCOPUOSの法律小委員会が起草した1967年の『月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約』(宇宙条約)を基本として、『国連宇宙5条約』と呼ばれる5つの条約が作られました。

宇宙条約第6条では、各国は自国の(民間企業・民間人の)宇宙活動に直接に国際的責任を負い、宇宙活動の許可及び継続的監督が必要と定められています。日本では、2016年に『人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律』(宇宙活動法)を制定し、日本国内における打上げや衛星管理の許可制度、落下による損害賠償制度に関する規定を整えて2018年から施行しています。

しかし、宇宙ビジネスを行う上での国内法としては宇宙活動法だけを守っていればよいわけではありません。例えば、人工衛星を打ち上げる場合には、電波法や航空法、安全保障輸出管理など、様々な法令も関わってきます。

また、外国からの依頼や外国で人工衛星を打ち上げる場合は、国内法だけでなく、相手国側の宇宙活動に関するルールも重要です。

そのため、宇宙ビジネスに携わる事業者は、国内の関連する法令はもちろん、国際的な法律の枠組みや他国のルールなどを理解し、取引の相手先・取引内容に応じて適法性を確認し、ビジネスを展開していくことが求められますし、弁護士はそのサポートをしていくことになります。」

■宇宙空間の“混雑”に伴い、新たな法整備は急務

―日本では宇宙活動法が施行されましたが、更なる法整備も必要なのでしょうか?

高取さん「宇宙活動の事業主体が『官から民へ』と移行する流れの中で、宇宙ビジネスに参入する民間事業者は海外だけでなく、日本国内でも増加の一途をたどっています。宇宙活動の種類や人工衛星の数が増加し、宇宙空間が“混雑”している現状に鑑みて、これまでは事例がほとんどなかった『宇宙事故』が現実的になってきているため、法令やガイドラインの整備が必要になってきています。

UNCOPUOSでは、宇宙交通管理や宇宙空間の持続可能性や宇宙資源開発等の議論を行い、事実上守るべき基準(ソフトロー)作りに向けた話し合いを続けています。

また、民間事業者が責任の範囲や損害賠償について事前にシミュレーションし、安心して宇宙ビジネスを実施するために、主に安全や宇宙交通管理の分野において、国際的な議論動向に合わせた現実的な国内法の法整備が急務となっています。

私は宇宙開発・利用に携わる弁護士として、内閣府や経済産業省などの要請を受けてオピニオンを提出する機会もありますが、こうしたオピニオンが日本の宇宙ビジネスの発展に資する法整備の一助になっていると思うと、大きな責任とやりがいを感じます。」

宇宙ビジネスの広がり=弁護士の活躍の場の広がりに備える「学び」の場
HEPTA-Sat トレーニングで得た「質問力」と「ビジネスの肝をとらえる力」

受講者:水島 淳さん
(西村あさひ法律事務所 パートナー)

“人が動くところに法律あり“とは、HEPTA-Satトレーニングを受講した弁護士の水島 淳さん(以下、水島さん)の言葉です。宇宙活動の「官から民へ」の流れの中、宇宙ビジネスに携わる事業者と法律との関係や、HEPTA-Satトレーニングを受講する意義についてお話を伺いました。

受講者:水島 淳さん (西村あさひ法律事務所 パートナー)

■法律の役割は「適法性の確認」「予防法務」「エクセキューション・デザイン」

―法律と宇宙ビジネスは、どのような関係があるのでしょうか?

水島さん「実は私も、私が弁護士となったころ(18年ほど前)は宇宙ビジネスと法律の関係を意識したことはありませんでした。宇宙活動自体は以前から行われていたものの、そのイニシアティブは長きにわたって国にありました。立法府を持つ国が主体者であり、宇宙に携わる人が限られた状況では、法律が必要とされるシーンは少なかったのです。

しかし近年、民間の事業者や研究者による宇宙を利用したビジネスや研究活動への参入が活発化し、宇宙空間における事象や地上での宇宙データその他の宇宙利用等に関する事象について公共安全その他の観点から行為者に対する規律を設ける必要性が高まり、また、当事者間で法的な紛争が起きる可能性が高まっていきました。

“人が動くところに法律あり”で、宇宙ビジネス関係者の増加・多様化に伴い、守るべき規律を明確にする、法的な紛争に巻き込まれないように予防する、あるいは万一紛争に巻き込まれたときに法律に照らして自身の権利を正しく守れるようにするなどのことの重要性が高まり、宇宙ビジネスと法律は切っても切れない関係になりつつあります。」

―水島さんのお仕事も、適法性の確認やトラブルを未然に防ぐためのアドバイスなどのお仕事が中心なのでしょうか?

水島さん「適法性の確認という仕事、問題が起きた時にリスクを最小限にするための予防法務はもちろんですが、弁護士としてもう一つ重要な役割はエクセキューション・デザインです。エクセキューション・デザインとは『ビジネスを法律の観点から組み立てる』ということです。

例えば、複数の関係者が携わるプロジェクトの場合、プロジェクトが生み出す価値を関係者間で分配するために、交渉や契約といった法的なツールを使って分配のルールを決めていきます。

こうした交渉や契約の戦略を間違えると、本来得られるはずだった収益や権利などが大きく棄損する可能性もあります。特に宇宙ビジネスの場合、大規模かつ国際的なビジネスに発展するケースが多く、契約条件等をめぐって関係者間での丁々発止の交渉が繰り広げられます。

そのため、クライアントからプロジェクトが生み出す価値の捉え方、自社の強み、プロジェクトから得たい収益や権利は何か、関係者との関係や思惑などを“事実”としてヒアリングして、その事実を基に法的な分析を行い、価値、収益、権利、リスク、コストなどを適切に分配するように法律面から整理して組み立てていくエクセキューション・デザインが必要になり、これが私の業務の大きな柱の一つになります。」

―ヒアリングをしてビジネスを組み立てていくには、ただ法律を知っているだけではなく、技術的な知識も必要になりますね。

水島さん「弁護士たる私が何かの技術を十分に理解していると考えるのは非常におこがましいことだと認識しています。むしろヒアリングの際に『正しい質問』をしてビジネス・技術について勉強させていただき、『ビジネスの肝』をとらえてクライアントが実現したいこと、その文脈における関連技術の位置付けや特徴を理解することが必要だと思います。」

■HEPTA-Satトレーニングで得られた、ビジネスの肝をとらえる「質問の力」

―正しい質問をする、ビジネスの肝をとらえるということは、やはり概要的な知識だけでは難しいように思います。

水島さん「そうですね。そこは不断の学びが必要になります。HEPTA-Satトレーニングも、こうした学びの一環で受講しました。」

―HEPTA-Satトレーニングを受講して特に良かったことは?

水島さん「まず、超小型衛星のシステム設計・開発・運⽤の流れを、実際に手を動かしながら体得できたことは、他のプログラムにはない大きな学びでした。

これは、具体的なイメージや実感を持って契約や交渉に臨めるといった点はもちろんですが、衛星の全体構造、システムとサブシステムの機能や役割、システムを成立させる手順といった衛星運用の全体像を自分なりに解釈できたことから、例えば『この部分は収益や権利の分配に影響が出るように思うが実際はどうなのか?その場合、契約書上で何らかのケアをしておいたほうが良いのではないか?』といった踏み込んだ質問ができるようになり、質問のクオリティ向上にも繋がりました。時には的外れな質問になることもありますが、クライアントに新たな気づきをもたらすことも増え、HEPTA-Satトレーニングで得た学びの大きさを感じます。」

■宇宙ビジネスの広がり=弁護士の活躍の場の広がり

―弁護士の立場から、宇宙ビジネスの広がりを感じることはありますか?

水島さん「事実として、私にご相談いただく案件数はこの10年間で格段に増えていますし、クライアント企業が取引している契約の金額も大きくなっています。

私が所属する第一東京弁護士会では、高取由弥子弁護士と私が中心となって宇宙法研究部会を立ち上げましたが、現在、この部会には100名を超えるメンバーが集まって活発な議論を繰り広げるなど、弁護士の中でも宇宙ビジネスへの関心が高まっています。」

―多くの企業が宇宙というキーワードに紐づいたビジネスを行っていることは、メディアでも多く取り上げられるようになりました。

水島さん「様々な企業が宇宙を利用することにより、これまで専ら科学研究の場であった宇宙が、徐々にビジネスツールとして利用される場になっているように感じます。

実際に宇宙を利用した通信やリモートセンシングなどのサービスが始まっており、これらを意識的・無意識的に利用する人が増えていることが、今の宇宙ビジネスを拡大させている要因となっています。

宇宙ビジネスに関わる人が増えることにより、これまでにはなかったような様々なビジネスが生まれる可能性は十分にあり、事業の組み立て方もそのビジネスの実態やゴールに合わせて新たに構築していくことが求められます。今後宇宙ビジネスにおいて法律・法律実務との兼ね合いが重要になるシーンは多様化・複雑化していくことが予想され、弁護士が果たす役割と活躍の場は、今後、加速度的に広がっていくと思っています。これに対応する弁護士も、宇宙ビジネスの肝をとらえるためのより一層深い『学び』が不可欠になると思います。」