このたび第五代理事長の桒原聡文先生から、UNISEC理事長を引き継ぎました。UNISECは2002年4月に誕生し、2003年2月にNPO法人化されました。2023年7月に「UNISEC 20周年記念 感謝の集い」を開催したことも記憶に新しいところです。
2002年にロケットグループ7団体、衛星グループ8団体のわずか15団体が結集して発足したUNISECですが、2024年には加盟団体が52団体(学校数は41校)、NPO個人正会員が238人、法人会員が31団体、学生会員が699人という大きな組織となっています。20年間これだけ大きな支持や参画をいただいていることは、UNISECが日本の宇宙開発の中で、確かに意味のある役割を担ってきていることの証左であると考えます。さらに今後10年、20年とUNISECがますます重要な役割を担っていくために、私は理事長として全力を尽くす所存です。
宇宙開発は激動の時代であり、日々常識が塗り替えられるほどの状況の変化があって、未来を予測することは容易ではありません。米国の新興企業が再使用型ロケットを使って数千基の小型衛星が稼働する通信網を構築し、便利なサービスが提供されつつ、戦争にも影響を与えている。こんな激動を見ると、まずは安易に「多くの情報を収集し、分析して、未来の潮流を読もう」という受動的な態度を取ってしまう誘惑があると、自戒の念を込めて感ずるところです。
しかし、歴代の理事長の挨拶をいま改めて読み返せば、UNISECが常に、新たな時代を自らの手で切り開く行動者、開拓者の育成に取り組んできていることは明白です。
初代理事長・八坂先生は「宇宙機関と大学間の補完関係が十分でない」「大学において実践的な教育をする機会がない」「大学が持っている学術的専門能力を技術課題に役立てるルートも細い」という3つの課題に対する解決策としてのUNISECを提示し、開発の現場で学生が「自分の判断で計画を作り、自分の手で仕事をし、自分で自分の仕事を評価する(中略)この一連の体験で世の中を見る目が違ってきた」のだと述べています。第二代・中須賀先生はUNISECのミッションを「信頼性の高い、つまり現場でしっかり動く物を作れる人材と技術を育てること」と再定義し、第三代・永田先生は「実機に纏め上げて動作させることを重要視する、というUNISECの文化から生み出される成果を、学術的・普遍的価値のレベルまで昇華させる」ビジョンを示し、また「我々はもっと真剣に宇宙を目指すべきだし、本気で宇宙に行こうと思っていない団体や活動が UNISECの大部分になるべきではありません」と述べています。第四代・宮崎先生は「UNISECが存在し続ける理由・意義を考えたとき、『本気で宇宙を目指すこと』は絶対に外すことのできないもの」、第五代・桒原先生は「会員個人個人の技術的興味のベクトルは違えど、『自分はこの分野で一番になるんだ』という熱意をもって集い(中略)『競争』という『連携』を通して知のフロンティアを開拓していくことが我々の使命」と述べています。
結果として、昨今のUNISECは、衛星・ロケットの実機を自らの手で開発することを超えて、さらにもっと大きな時代の潮流を作る活動を実施しています。世界的に超小型衛星の成功率が低い現状に対応する目的で、「超小型衛星ミッションアシュアランス・ハンドブック」やMission Assurance情報共有Webサイトを作成し、情報提供を進めています。大学一校ではとても網羅しきれない、広範な宇宙工学の要素技術・システム実践技術・汎用共通技術を体系的に学べるよう、オンライン講座「UNISECアカデミー」を開講し、さらに英語版「KiboCUBE Academy」を無料公開しています。「2030年末までに、すべての国で大学生が実践的な宇宙プロジェクトに参加できる世界を」というビジョンを持って「UNISEC-Global」国際活動を行い、UNISEC-Globalは国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)において常任オブザーバーとして参加を認められており、宇宙分野における日本の国際的地位向上にも貢献しています(2020年、第4回宇宙開発利用大賞外務大臣賞を受賞)。
つまり、ここUNISECはすでに、「個々人のスキルや熱い思いを統合し、共に新しい未来を創ろう」と考える、宇宙新時代の開拓者たちのコミュニティになっているのだと感じます。この激動の時代の中にあって、「未来を予測する最善の手段は、それを自ら創造することだ」というアラン・ケイ氏の言葉を体現する集団であるとも言えます。
この前提を踏まえ、新理事長として、私は下記の3つを重要な視点としてまとめて提示することで、このコミュニティの活動を円滑化し、発展させたいと思います。
私自身、UNISECに参画したおかげで、自身が構想した衛星プロジェクトをいま主導することができています。技術的要素についてだけではなく、プロジェクトマネジメントのノウハウ、チームを鼓舞する自らの姿勢、本当に人類社会に対し価値のある宇宙ミッションを行うための大きなビジョン、そういう議論ができるライバルたちがUNISECにはひしめいています。
皆様もぜひ、どっぷりとUNISECへご参画いただき、自らが宇宙時代を切り拓く開拓者として先頭に立っていく、そのためのスキルと熱い思いを、このコミュニティへ注入したり、獲得したり、そんな相互作用を楽しんでいっていただきたいです。