大学宇宙工学コンソーシアム(UNISEC)がNPOとしてスタートを切った2003年、私は九州大学大学院工学研究科航空宇宙工学専攻の宇宙機ダイナミクス研究室(八坂哲雄・花田俊也研究室)の修士課程1年に在籍する学生でありました。 八坂哲雄教授を理事長に、「宇宙を若者たちの活躍の場にしてゆきたい」との志で設立されたのがUNISECであります。 その後も歴代の理事長に導かれ、17年という歳月を経て大きな発展を遂げ、数々の功績を残してきたUNISEC。 この度、初の学生会員出身者として、第五代目として理事長を引き継がせていただきます。 微力ではありますが、次の20年の発展の礎を築いていくつもりで、精一杯務めさせていただきます。 皆様のご支援を、何卒よろしくお願いいたします。
UNISECは小型衛星とロケットという宇宙工学の分野において、“実践的な宇宙工学活動の実現”を支援することを目的として設立された特定非営利活動法人(NPO)です。 現在34の大学・高専からの45の団体が加盟しており、約600名の学生会員と300ほどの個人・法人NPO会員より構成される、非常に大規模なNPO組織となっております。 UNISECのビジョンは世界に共有され、2011年には「100カ国構想Vision 2020-100」を発表、そして2013年にはUNISEC-Globalを設立し、現在20のローカルチャプター、54のポイント・オブ・コンタクトが加盟するに至っています。 また、このような国際的な活動が評価され、2017年には国際宇宙空間平和利用委員会にてUNISEC-Globalが常任オブザーバとして承認されました。 UNISECは2018年には東京都より「認定 特定非営利活動法人」として認定され、その活動基盤を強固なものとしてきております。 更には、国際宇宙大学、エジプト宇宙庁等とのMOUを締結するなど、国際宇宙教育活動に益々力をいれてきているところです。 このような中で、従来のUNISECはUNISEC-Japanとして位置付けられ、その活動は世界の注目を集めるものとなっているのは事実であり、強力なリーダーシップと明確なビジョンを打ち出していくことが求められています。 UNISEC-Japanの組織としては、19名で構成される理事会を中心に、国際委員会、国際委員会アドバイザリーボード、各種委員会及びワーキンググループ、そして学生組織であるUNISON(UNISEC Student Organization)と卒業生組織であるUNISAS(UNISEC Alumni Association)から構成されております。 UNISECの活動にはUNISONが中心となって運営しているものが少なくなく、UNISONの担う役割は大変重要なものとなっています。 これらの関係については宮崎康行 前理事長のご挨拶をご覧ください。 UNISONを構成する学生会員は、国際的な宇宙工学活動の場で主体的に活躍することが期待されています。
八坂哲雄 初代理事長のご挨拶にありますように、UNISECは1.協働し成長する人材育成、2.常識や前例に縛られない技術開発、3.宇宙開発の裾野を広げるアウトリーチの3つのミッションを掲げて発足いたしました。 その後、中須賀真一 第二代理事長の代において特に人材育成と技術開発に重点を置く方針が打ち出され、ただ単に宇宙に挑戦するだけではなく、「信頼性の高い、しっかり動く物を作れる人材と技術を育てること」の重要性が明確に唱えられました。 そして、中須賀教授が主導された「ほどよしプロジェクト」において、特に超小型衛星の技術水準は格段に向上し、国内の宇宙機器サプライチェーンの充実と、多種多様なスピンアウトプロジェクトが立ち上がりました。 一方で、その後宇宙がより身近になったことの弊害か、UNISEC加盟団体間の相互支援の活動が薄れ、「本気で宇宙を目指す研究者」の交流が滞るという状況を経験致しました。 「本気で宇宙を目指すこと」を徹底するという原点回帰の方針を打ち出された際の永田晴紀 第三代理事長のご挨拶にそのときの様子が記されています。 このように、UNISECは必ずしも順風満帆な時代だけではなく、大きな葛藤を乗り越え今日に至っており、これからのUNISECの存在価値を決めるのは、我々自身であるということを強く認識していく必要があります。
UNISECがNPOとしてスタートした2003年は、奇しくも当時の宇宙科学研究所、航空宇宙技術研究所、そして宇宙開発事業団の3機関が統合して、独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)として発足した年でもありました。 また、2003年は東京大学と東京科学大学が世界に先駆けてCubeSatを打ち上げた年でもあります。 それから17年、超小型衛星は世界的に商業利用が開始され、数々のメガコンステレーション構想や、深宇宙探査計画が存在するなど、状況は一変しています。 50機を優に超えるUNISEC発超小型衛星を見ても明らかなように、この発展はUNISECの歴史と言っても過言ではないかもしれません。 世界の流れを見ると、ARTEMIS計画においては再び有人月探査が計画されています。 このように、時代は数十年に一度の大きな変革の時を迎えており、社会における宇宙工学活動の重要性はこれまでになく高まっております。
そのような時代の流れの中で、UNISECの活動は少しずつ変容を遂げてきているとも言えます。 従来からの加盟大学・高専への支援活動に加え、委託契約を獲得する形で主体的に種々の研究活動を開始しています。 また、UNISEC-Globalへの貢献として、CLTP: CanSat Leader Training Programの開催や、HEPTA-Satという超小型衛星開発トレーニングキットを用いた教育トレーニング機会の提供、MIC: Mission Idea Contestの開催、超小型衛星インターフェースの標準化への貢献などが挙げられます。 更に、その国際的なネットワークを活用し、Debris Mitigation Competitionの開催を通した宇宙ゴミ問題への注意喚起や、その具体的な対応指針として、The International Academy of Astronautics (IAA) のスタディグループのご協力により作成いただいた“A Handbook for Post-Mission Disposal of Satellites Less than 100 kg”を使っての教育活動、日本としての宇宙新興国に対する支援可能性調査などに積極的に取り組むに至っています。 また、UNISEC加盟団体によっては独自に新興国教育プログラムを実施し、これまでに多数の機関との有効な関係を構築してきており、日本の重要な国際社会貢献の一つとしてその意義が高く評価されています。 これは、第4回宇宙開発利用大賞外務大臣賞を受賞したことを見ても、その活動の重要性が広く認知されていることがわかります。 また、このようなUNISECの活動の存在とエネルギーが、本国において超小型衛星のための軌道上実証の機会が、比較的安定的且つ豊富に提供され続けてきているという事実に繋がっていると感じているところです。
ここで、改めて初代理事長の言葉を思い起こしたいと思います。 「UNISECの価値を判断することは難しくない。学生たちの元気さと熱気が、参加者を魅了し続けているかどうかである。」 果たして今のUNISECの価値はどの程度であろうか。 私はまだまだその価値を高められると信じています。 そしてそのために、以下の活動に取り組んで参りたいと考えています。
UNISECは日本の宇宙開発において必要不可欠な団体であると、私は信じています。 会員個人個人の技術的興味のベクトルは違えど、「自分はこの分野で一番になるんだ」という熱意をもって集い、全体として宇宙工学の躍進的な発展に貢献し、「競争」という「連携」を通して知のフロンティアを開拓していくことが我々の使命です。
COVID-19に因る厳しい環境におかれている状況ではありますが、創意工夫により建設的な活動を継続して参りましょう。
どうぞよろしくお願いいたします。