理事長挨拶(2018)

宮崎 康行(Yasuyuki MIYAZAKI)日本大学教授

宮崎 康行(Yasuyuki MIYAZAKI)日本大学教授

UNISECの皆様へ

(1) ご挨拶の前に(UNISECの組織について)

2001年に教員10名,学生70名ほどのグループからスタートし,2002年にNPO法人化したUNISECは,現在,300程の法人・個人が加入するまでになりました.UNISECの活動形態は少し変わっていて,UNISECは,会員自体が何かを生み出す活動を主として行うというよりは,定款(https://unisec.jp/unisec/public)では,「技術開発と宇宙開発などの先端的技術に関わる人材開発」を主として行うNPO法人と定められています.

では,その人材は誰かといえば,これも定款にある通り,「実践的な宇宙工学教育を行う国内外の大学・高専の学生および教員」であり,彼らの「支援」を通じて人材開発を行うのがUNISECです.つまり,そういった「学生および教員」がいて初めて成り立つのがUNISECです.

また,UNISECでは,その「学生および教員」は個人ではなく,“教員と学生のセットから成る団体”としています.これが,“UNISEC加盟団体”です.では,教員と学生がセットであればどんな団体でもUNISEC加盟団体になれるのかといえば,そうではなく,UNISEC加盟団体に所属する教員はUNISECの会員でなければなりません.また,特に規定があるわけではないですが,UNISEC加盟団体に所属する学生は全員,学生団体UNISONの会員になり,学生会費を払うことになっており,UNISONの活動は学生会費で賄われています.そして,UNISEC加盟団体に所属する教員は,自身が所属するUNISEC加盟団体の活動に責任をもつという意味で,UNISEC内では“責任教員”と呼ばれています.

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つまり,UNISEC加盟団体の教員は,お互い,UNISEC会員の立場として,他のUNISEC加盟団体の「支援」を行いながら,自身もUNISEC加盟団体の一員の立場として「支援」を受けることになります.文字通り,“互助”の関係がそこにはあります.

この“互助”の関係は,何の前提もなく成り立つものではなく,そこには,UNISEC加盟団体の一員の立場として行動する際に心得ておくべき暗黙の了解があり,それはUNISEC設立当初から脈々と受け継がれてきています.そして,2017年,それを明文化しようということになり,UNISEC理事会で作成したのが,“UNISEC行動規範”です.UNISEC行動規範は12カ条から成ります.UNISEC加盟団体には様々な研究・開発・教育を行う団体がありますが,「実践的な宇宙工学教育を行う国内外の大学・高専の学生および教員」であれば,誰しもに当てはまるのが,この12カ条かと思います.

最後に,UNISECとUNISONとの関係についても触れておきたいと思います.UNISONは,UNISEC加盟団体の学生が主体的に活動することを目的に,2003年にUNISEC加盟団体の学生さんたちが立ち上げた団体です(UNISONページ).現在では,夏に開催されるUNISEC総会におけるUNISEC加盟団体の活動報告会や,能代宇宙イベントでのCanSat競技,ARLISSの事前審査,年末に開催されるワークショップの運営など,UNISEC内の多くの活動は,UNISONが中心となって運営しており,いわば,UNISONがUNISECの「支援」活動の多くを“肩代わり”してくれている状態にあります.UNISONがUNISEC加盟団体に所属する学生のみから成る団体であることを考えると,この状態も,「支援」される学生が他のUNISEC加盟団体の学生を「支援」するという,“互助”の状態であるといえます.

このように,UNISEC会員,UNISEC加盟団体,UNISONが独特の関係を保ちながら運営されているのがUNISECであり,UNISEC全体の活動の事務的な下支えしつつ,この3者の関係の調整役になっているのがUNISEC事務局です.

(2) ご挨拶

UNISECは,本気で宇宙を目指した大学・高専の教員によって2001年に結成され,2002年にはNPO法人となり,現在は,会員と学生会員(UNISEC加盟団体に所属する学生)を合わせて,有に1000人・団体を超える団体になっています.また,2003年に設立された学生団体UNISONがUNISECの様々な活動を仕切ってくれるまでになりました.実際に衛星打ち上げ等,数多くのUNISEC加盟団体が宇宙に出ていくようになりました.UNISEC設立当初,多くの皆さんが,「本気で宇宙を目指すこと」のみならず,「宇宙の裾野を広げること」,「UNISONがUNISECに取って代わるくらい,学生が活躍してくれること」を心の中で思い浮かべていたと思いますが,それらの思いはほぼ実現されたと言ってもよいのではないでしょうか.

そこで,永田前理事長と理事会は,「本気で宇宙を目指すこと」を徹底するという,原点回帰の方針を打ち出しました.また,これに合わせて,理事会ではUNISEC行動規範をつくりました.是非,今一度,前理事長の挨拶をご覧いただき,「本気で宇宙を目指すこと」がどういうことを意味するのかをご確認いただき,併せて,理事会が当時もっていた,現状への危機感や今後への強い意志をご確認いただければと思います.

この方針を打ち出した際には,UNISEC会員やUNISEC加盟団体の教員・学生の皆様から,賛否両論,様々なご意見をいただき,改めて,UNISECの広がりの大きさを感じさせられました.しかし,UNISECが他の団体と違う点,多くの宇宙関連団体がある中で,UNISECが存在し続ける理由・意義を考えたとき,「本気で宇宙を目指すこと」は,絶対に外すことのできないものだと思います.また,目指すだけでなく,実際に宇宙に出ていくことがキーになると思います.したがって,少なくとも,「本気で宇宙を目指すこと」は堅持していこうと考えており,是非,UNISEC会員の皆様,UNISEC加盟団体の教員・学生の皆様にも,この方針やUNISEC行動規範をご支持いただきたいと思っています.

では,今後,UNISECはどんな活動をしていくべきでしょうか? この問いに対する答えには様々なものがあるかと思いますが,例えば,次のものが考えられるかと思います.

  1. “宇宙への入り口”をつくる活動
    1. CanSat競技の運営(能代宇宙イベントにおけるCanSat競技,および,ARLISSの運営)
    2. ハイブリッドロケット等の打ち上げ場所・機会の提供・運営
    3. 基礎を学ぶ機会の提供・運営(宇宙工学講座やCLTP等)
  2. “宇宙を使う”ことの支援
    1. 打ち上げスロットの調整(国内外の打ち上げ機会の探索・紹介,打ち上げ機会提供者との調整等)
    2. 法的手続き関連を学ぶ機会の提供(宇宙活動法,打ち上げ実験に係る自治体との調整・安全管理,周波数申請,安全保障貿易管理等)
    3. 宇宙活動に伴う問題を理解する機会の提供(デブリ問題,周波数利用問題等)
  3. 宇宙開発最先端を切り拓く研究開発活動の支援
    1. 1) レビュー会の調整・開催(レビュアーのアレンジ・派遣等)
    2. UNISEC加盟団体が自身の活動を見せ合い,議論する場の提供(ワークショップ,Space Takumi Conferenceの開催等)
  4. 対外活動
    1. 国際関連活動(国連COPUOSのパーマネント・オブザーバの活動,UNISEC Globalの運営,Mission Idea Contest,UNISEC Global Meetingの開催・運営等)
    2. ロビー活動(UNISECの活動の発展に関連した国内外への様々な働きかけ,および,ファンドレージング)
    3. 研修事業による社会還元(宇宙工学講座,HEPTA-Satやi-CanSatを用いた研修等)

また,活動内容だけでなく,それを誰がやるかをきちんと考えることも重要です.その意味で,今後は,理事会やUNISEC会員,UNISEC加盟団体,UNISON,UNISEC事務局のそれぞれの役割やお互いの関係を再構築していく必要があると思います.例えば,UNISEC加盟団体の責任教員がもう少し前面に出て,ビジョンを語り合うなどしつつ,文字通り“責任”を持ってUNISECの活動をドライブしていくことなどが考えられます.特に,UNISECは現在,設立当初は学生だったメンバーが会員,責任教員,理事の多数を占めるようになっており,世代交代の時期に差し掛かっていることも考え併せると,場合によっては,設立目的など定款の内容も変えていく必要があるかもしれません.実際,定款には

この法人は、実践的な宇宙工学教育を行う国内外の大学・高専の学生および教員に対する技術指導、実験設備や実験機会の提供などの支援と、一般の人への宇宙工学分野の普及啓発活動を通して、ロケット・人工衛星をはじめとする技術開発と宇宙開発などの先端的技術に関わる人材開発を行い、もって社会と産業の発展へ寄与することを目的とする。

と書かれており,UNISEC加盟団体は,ここでいう「支援」される側,「人材開発」される側という位置づけになっています.しかし,実際には,「支援」されるのではなく,お互い,切磋琢磨しながら自分たちで道を切り拓いていったのが個々のUNISEC加盟団体であり,月日が流れる中で,UNISECの目的も,定款で掲げているものとは少し違うものになってきている気がします.

こういったことを一つ一つ議論し,実行していきながら,これからも「本気で宇宙を目指すこと」,そして,実際に宇宙に出ていくことをUNISECのみんなで実現し続けていければと思います.

最後になりましたが,私個人は,“人がやらないこと,人ができないことを実現したい”という思いで,これまで研究をしてきました.特に,膜面などを使った大型の軽量展開宇宙構造物の展開動力学や設計に関する研究をしており,具体的なミッションとしては,40m級の膜面を展開するソーラー電力セイルによる太陽系探査ですとか,恒星の光を遮断するための50m級の膜面をラグランジュ点で展開する,スターシェードと呼ばれるシステムによる系外惑星直接観測といったものを研究しています.また,将来に向けて,100m級の宇宙構造物の構築法の研究をしています.どれも,現時点では難しいと言われていることではありますが,私は何としても実現をしたいと思っていますし,UNISECに参加する以上,UNISECの中で,自分の研究に刺激となるような出会い・活動があればいいなと思います.また,このようなテーマを一緒にやってくださる方がいれば最高に楽しいだろうなと思います.

是非,これからは,UNISECの皆さんにも,UNISECの中で,自分がやりたいこと・目指していることを多いに語っていただきたいと思います.そして,みんなで,UNISECを,互いに競争・刺激をしあいながら,また,協力もしながら,高みを目指し実現していける場にしていきましょう.

どうぞ宜しくお願いいたします.