第2回 能代宇宙イベント

2006-01-010

2006年に行われた第二回能代宇宙イベントの報告です。

  1. 第2回能代宇宙イベントの由来
  2. 前日の嵐
  3. 開会式
  4. ハイブリッドロケット打ち上げ
  5. カムバックコンペ
  6. ローバーコンペ
  7. 閉会式
  8. 大懇親会
  1. 第2回能代宇宙イベントの由来

    能代宇宙イベントは、2004年の夏に秋田大学の秋山先生[+link]が、ペンシルロケット50周年を記念して何かできないだろうかと考えたところから始まりました。そのときに相談したのが、秋田放送の記者の方。それからあれよあれよという間に、市や県の方々が協力してくださるようになり、秋田県の八郎潟干拓地の北に位置する能代市の海岸付近にある「浅内鉱滓堆積場」にて2005年の夏に能代宇宙イベントができるようになりました。もちろん、「あれよあれよ」は魔法ではなくて、人と人との信頼が基になっていますし、人の背よりも高い葦をなぎ倒すというところから始まった会場作りなど、多くの方々の献身的なご協力があってのことです。第一回の能代宇宙イベントは、大成功のうちに幕を閉じました。

    noshiro
    会場

    今年はその二回目。
    昨年との違いは、早くから学生を中心とするワーキンググループ(WG)を作って、準備の体制をとっていたこと。秋田大生を中心とした準備チームは、会場設営から宿や足の手配など、全力投球で準備に没頭。参加団体もそれぞれ仕事の分担があります。自分たちで作ったイベントに、自分たちが出るという仕掛けですが、やはり地元大学の負担が一番大きくなってしまいます。笑顔で準備にいそしむ鈴木晴隆さんは、学部の2年生ながら、WGのリーダーとして大活躍。あちこちで「鈴木さーん!」という声がかかります。宿泊手配を一手に引き受け、会場整備に朝3時から通ったという小林さやかさんは、UNISEC総会で能代宇宙イベントのプレゼンテーションもしてくれました。

    suzuki
    鈴木さん

  2. 前日の嵐

    本番は8月19日。天候が悪かったときに備えて、予備日を20日と21日の両日とってあります。17日は絶好のコンディションだったのですが、前日の18日は台風の影響で、秋田地方は豪雨。ロケット打ち上げのリハーサルも中止になってしまいました。それぞれ部屋で入念に調整をします。

    Tokai Univ
    東海大フェアリング

    豪雨のため、高速道路は閉鎖になり、電車も止まってバスでの代替輸送。
    ワーキンググループメンバーとして準備のために先発隊としてきていた九大の鶴田さんは心配そう。ほかのメンバーがカンサット機体を持ってくることになっているので、飛行機が飛ばなければ参加不可能になってしまうのです。幸いなことに飛行機はなんとか飛びましたが、全員がそろったのは深夜1時過ぎのことでした。

    夜6時からワーキンググループのミーティング。細かなスケジュールなどの打ち合わせをします。そして、7時半からはカムバックコンペとローバーコンペがそれぞれミーティング。コンペの詳しいやり方が説明され、出場の順番をくじびきで決めます。今年はカムバックコンペには10大学14チーム、ローバーコンペには5大学6チームが出場します。これから各チームとも、夜を徹しての最終調整が始まろうとしています。

    meeting
    気球の放出機構の説明中

    参加者が多いので、宿舎はいくつかに分かれています。スポーツリゾートセンター「アリナス」に100人程度が宿泊しているほか、昨年大混雑だった山谷公民館に、今年も数十人がお世話になり、さらには地元の旅館にも泊めていただいています。ミーティングはアリナスで行われたので、ボランティア運転手たちは送迎で大忙しです。今年は、東海大OBの平川さんらが運転手として大活躍してくれました。

  3. 開会式

    opening
    開会式

    開会式には、県や市の関係者やスポンサーなど、たくさんの来賓がいらしてくださいました。そして、ずらりと並んだ大学生の皆さん。今年は200名近い参加者となりました。徹夜明けの方も多いようですが、朝なのでまだみんな元気いっぱいです。

  4. ハイブリッドロケット打ち上げ

    昨年は東海大のみだったハイブリッドロケットの打ち上げは、今年はなんと三大学に。地元秋田大と筑波大が加わり、ロケットの準備風景もにぎやかになりました。ランチャーは、昨年度のUNISONプロジェクトで製作し、「能代市子ども科学館」に展示されていたものを解体してトラックで運び、会場で設営したもの。このために東海大の桑原さんや堤さんらは、1週間前から現地入りして準備にあたってきました。

    トップバッターは秋田大。イベント準備と同時並行でロケットの製作にも全力投球した秋田大のロケットは見事に打ち上げ成功。燃焼試験をじっくりやった甲斐がありましたが、残念ながらパラシュートがちぎれてしまい、機体が破損してしまいました。

    Nojiri 
    秋田大ロケット (写真:野尻抱介氏「能代宇宙イベント2006報告」より)

    初出場の筑波大は、今年5月にチームアップをしたばかり。1ヵ月半でハイブリッドロケットを作って打上げるという離れ業をやってのけました。少し前に試射をしたときには、回収に失敗して機体が二つに割れてしまったそうですが、今回は成功しました。筑波大の大躍進の陰には、ピコピコハンマーでメンバーをつつきながら、全員の力をうまく引き出した上道プロマネの存在と、東海大で4年間のロケット生活にあけくれた山口サブプロマネが大学院から筑波大にうつったことが大きかったようです。事前準備の様子など、プロはだし。短い間に、メンバー自身が驚くほどの成長を遂げました。

    Tsukuba
    筑波大ロケットとメンバー

    Tsukuba
    山口サブプロマネ(左)と上道プロマネ(右)

    トリは東海大。実力も実績もある同大学は、新しいライバルたちの打ち上げが成功している中、ここは一つびしっとお手本を見せたいところ。TSRP H-09機は、長さ2.1m、重さ7.2kg。これまでの東海大のロケットとは異なり、フェアリングが開きます。中には有限会社空庵が売り出し中のカンサットキットやぬいぐるみのコモモが入っています。そして、機体表面には一般募集した子ども達の絵26枚が貼り付けられています。笹川プロマネ率いるチームはさすがの貫禄で、ロケットは打ち上げ・飛翔・回収とも成功しました。

    sasagawa
    笹川プロマネと搭乗クルーの「コモモ」

    Tokai Rocket
    ロケットに貼り付ける子供達が書いた絵

    Tokai Launch
    東海大ロケット

    今回の打ち上げ成功は、三大学が協力しあった結果といえそうです。また、三大学のうち、二大学までが女性のプロマネであるのは注目に値します。日本の学生ロケット開発は、どうやら新しい様相を呈してきた模様です。

  5. カムバックコンペ(フライバックコンペ) 

    rules of comeback competitionカムバックコンペ・ルール

    カムバックコンペとローバーコンペは、9月のアメリカ・ネバダ州での打ち上げ実証実験ARLISS(リンク)の審査会を兼ねています。ここで成果を見せることができたところだけが、現地に行くことができます。カムバックコンペの実行委員長は東大の中須賀先生。コンペの提唱者にして実行隊長でもあります。

    カムバックコンペは、係留気球を使って行います。放出機構は全部手作りで、東大で作って持ってきました。今年の「気球班」は東京科学大学が担当です。この気球班は、かなりの重労働です。気球をあげるときは力はいりませんが、おろすときは、手で紐を巻き取る作業となり、相当な力が必要です。東京科学大学は2チーム出場していますが、どちらもこの1週間、ろくに寝ていないとのこと。けれど、好きなことなら寝なくても大丈夫なようで、自分たちのカンサット実験はもちろんのこと、無事に気球班の仕事もやりとげました。ARLISSにむけて、この経験を生かして、自分たちで気球を使っての実験も考えておられるようです。

    気球
    気球

    今回は、GPSによる飛行軌跡と制御履歴の整合性がとれているかどうかという審査基準をクリアしたの慶應義塾大学のみでした。従って、優勝は慶大、2位・3位・特別賞は該当なし、となりました。 慶大は、2003年に中止になった板倉コンペ以来の参加で、もちろん能代は初体験ですが、見事に栄冠を勝ち取りました。ロボカップで優勝経験もある研究室のメンバーだけあって、動くものを作るのはお手のもののようです。

    Keiou
    慶大メンバー

    ARLISSへの参加がほぼ認められたのは、制御履歴を残せた6チーム。
    慶大「Wolve’Z」のほか、東北大「C-Boys」、東京科学大学の「Da Vinci」と「スポボビッチ」、東大のTeam SNUT(親子衛星になっているのでパラシュートも二つ)、青山学院大の「愛缶fly」です。慶大以外の5チームは、8月23日までに不具合の改善などをまとめたレビューを提出することになっており、それで最終的にアメリカに行けるかどうかが決まります。今回制御できなかったチームも、レビュー次第で行ける可能性もあるので、コンペ後も徹夜のがんばりが続きそうです。

    tohoku
    東北大「C-Boys」

    todaisnut
    東大「Team SNUT」

     

    titech_davinci
    東京科学大学「Da Vinci」

    titech_supobo
    東京科学大学「スポボビッチ」

     

    aogaku
    青山学院大「愛缶fly」

    カムバック(フライバック)コンペ結果

    大学 CanSat名 1回目距離(制御) 2回目距離(制御)
    九工大 KIT-Can パス 計測不能
    東北大 C-Boys 70m(×) 110m(△)
    香川大 MICAN 80m(×) 140m(×)
    東京科学大学 Da Vinci 80m(△) 160m(△)
    東大 Team SNUT(Mother) 80m(△) 200m(×)
    東大 Team SNUT(Daughter) 90m(×) 110m(×)
    東海大 TubeSat 110m(×) 280m(×)
    香川大 Cool-Running3 80m(×) パス
    慶応大 Wolve’Z 80m(○) 150m(×)
    秋田大 Seva3 パス 60m(×)
    九大 JoZEF 90m(×) 計測不能
    東大 Sky-Wits 70m(×) 70m(×)
    香川大 XILES-2 50m(×) 80m(×)
    青学大 愛缶fly 220m(△) 200m(×)
    東京科学大学 スポボビッチ 120m(△) 20m(×)

    (注)制御欄の説明
    ○…GPSによる飛行軌跡と制御履歴の整合性が取れている。
    △…飛行軌跡と制御履歴はそれぞれ取得できているものの、飛行軌跡の精度に問題がある、もしくは制御の意図が飛行軌跡に反映されていない、などの問題がある。
    ×…飛行軌跡、制御履歴のいずれかの取得に失敗している。またはパラフォイルの開傘に失敗して制御が有効でないことが明白である。

    <講評>
    いくつかのチームで、パラフォイルやパラシュートの制御機構に新しいアイデアが見られる一方で、実験の基本である”データの確実な取得”に多くのチームが苦戦していたのは大変残念でした。
    CanSatは超小型衛星モデルなのですから、ミッション系(=パラフォイル周り)に注力する余り、バス系(=GPS、通信、ROMなど)がおろそかにならないようプロマネの方にはきちんとマネジメントしていただきたいと思います。また、技術の継続性という観点から、前年の先輩の経験からいかに学ぶか、来年の後輩に同じ失敗をさせないためにはどうしたらよいか、などノウハウの伝承に力を入れないと、技術の上積みはなかなか得られないのではないか、という印象を持ちました。 今回得られた貴重な経験を是非次の機会に生かしていただきたいと思います。
  6. ローバーコンペ

    rover competition rulesローバーコンペ・ルール

    パラフォイルを自律操縦して目的地近くに降りるのを競うフライバックに対して、パラシュートで降りて、着地したところから地面を走ってゴールインを競うのがローバーコンペ。今年は5大学6チームが参加しました。実行委員長は、東北大の永谷先生で、ルール作りからご担当いただきました。

    優勝は東北大玄孫チームの「マモルくん」。1.6mの記録でゴールイン。同じ東北大のせきぐちーむの「小力」の記録はなんと28センチメートル。しかし、審査の基準で「半径2mのゴールエリア内に到達したローバーが複数の場合,ローバーが地上に到達した瞬間から,最も短い時間でエリア内に到達したものが優勝」と決まっているので、すばやくゴールに到達したマモルくんに優勝を譲りました。この審査基準は、GPSの精度が2m程度というところから来ていて、2m以内ならゴールに近いも遠いも同じとみなされるためです。三位は創価大チームの「ひぐち」。ほかの3チームはうまく動かなかったり、フェンスにぶつかったりで、リタイヤとなりました。

    mamoru
    力走するマモルくん

    しかし、実をいうと、このマモルくんは、前日には出場できないかもしれないと心配されていました。原因は「体重オーバー」。今回のコンペでは、1050グラム厳守で、超えたら失格ということになっていました。1050グラムのことは知っていたそうですが、「大目に見てもらえるだろう」と甘い認識のまま現地入り。前夜のミーティングで絶対に不可というお達しを受けて、夜を徹して減量大作戦を行ったそうです。タイヤを削って、なんとか減量に成功したのはよかったのですが、本番15分前に電源をいれたらショート。「マモルくん」は、電源すら入らなくなってしまいました。モーターにいきなり電流を入れるとバッテリーがショートすることがあるそうですが、まさしくそれが起きてしまったとのこと。「心臓が止まるかと思った」という吉川さんらチームメンバーは、なんとかバッテリーを回復させ、本番に間に合わせた根性の勝利でした。

    ローバーコンペ結果

    優勝 東北大学 吉田・永谷研 「玄孫チーム」マモル君 1m60cm 2分35秒
    第二位 東北大学 吉田・永谷研「せきぐちーむ」小力 28cm 3分39秒
    第三位 創価大学黒木研「ひぐちチーム」ひぐち 18m40cm 7分00秒
    リタイヤ 電通大・東京科学大学合同チーム MAICO
    リタイヤ 東京大学 チーム「SAMURAI」 ボウクン
    リタイヤ 秋田大学 学生宇宙プロジェクト SCOTOS

    <講評>
    前回のコンペと比較し、ゴールした(またはゴールに近い)チームが3チームとなり、コンペとしては,成立していたと喜んでおります。しかし、今回の能代コンペは、ARLISSと比較して、環境も条件もかなり緩いものでした。したがって、ゴールしたチームも、やはりまだ、ARLISSでゴールできる気がしません。(できたとしたら、運がいいだけ。)現時点で、何が問題かをリストアップし、気を引き締めてARLISS までにしっかりとした対策を立ててもらいたいと思います。また、ローバーの構造がかなり似通っている中で、秋田大学の斬新なアイデアが良かったのですが、きちんと動かなかったのが残念でした。
    来年は(特に環境をARLISSに近づけるといった)もう少し厳しい条件を追加したローバーコンペを企画するつもりですので、よりハイレベルなローバーを構築してもらいたいと思います。

    ローバーコンペ結果

     

    Participants
    ローバー参加者写真

  7. 閉会式

    closing
    閉会式

    開会式と同じように整列して、閉会式。朝と違うのは、皆さんが暑さと疲労と睡眠不足でぐったりしていること。新岡実行委員長からの挨拶や、秋山先生からの連絡事項、そして創価大黒木先生からローバーコンペの結果発表があり、東大中須賀先生からカムバックコンペについての講評がありました。

    そしてこれから後片付け。自分たちが作業したところは、自分たちで片付けてきれいにするのが鉄則です。本格的な後片付けは明日の午前中に予定されていますが、身の回りのゴミはまとめ、持ってきたものは持って帰り、手早く片付けます。

  8. 大懇親会

    くたくたになっていたはずの参加者たちですが、一風呂浴びて、懇親会にはすっきりとした顔で元気に参加。うまくいったチームも残念だったチームもとりあえずは乾杯です。

    campai
    懇親会で乾杯!(こんなテーブルが20以上ありました)

    そして、カムバックコンペとローバーコンペの表彰式。優勝チームに賞状とカップの授与。カムバックコンペのカップは、昨年の福岡IACコンペ優勝チームの九大(香川大と優勝を分け合いました)が、台風の中をもってきてくれました。今年は慶大が持ち帰りました。

    祝福を受ける衛星チームを見て、ロケットチームからは「なぜ、ロケットには賞状もカップもないのか」という声。UNISECも能代宇宙イベントも、何もないところから作られたものです。今見ている現実は、誰かが想ったことを実現した結果です。コンペも賞状も、ほしいと思う人がいて、企画すればできるものですから、来年にはロケットコンペが企画されるかもしれません。

    cup
    優勝カップ授与(ローバーコンペ優勝の東北大)

    秋山先生は懇親会でも司会として大活躍。参加者や来賓を次々に紹介しては、場を盛り上げます。「私はイベント屋ではありません」と言いつつも、顔が輝いて見えました。イベントを全力で支えてくれた秋田大学の学生さんたちにも、感謝状が贈られました。

    心から「やった!」と思えるような成果を出すことでそれまでの苦労は吹っ飛びます。うまくいかなったときには、学ぶことがたくさんあります。カンサットの参加チームは9月のARLISSに向けて、ロケットの参加チームは来年3月の大樹町実験に向けて、また精進の日々が始まります。能代宇宙イベントに参加しなければありえなかった展開が、これからあちこちで起こっていくことでしょう。

    <文責:川島>

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