メモリーズ日本の宇宙ミッションの課題(15周年記念イベント内ディスカッション)

2018-04-200

2018.1.27 東京大学武田ホール 15:00~15:50
タイトル: 日本の宇宙ミッションの課題
司会: 松永 三郎(東京工業大学)
登壇者: 小泉 宏之(東京大学)、永田 晴紀(北海道大学)、船瀬 龍(東京大学)、森 治(JAXA)
登壇者名をクリックすると、発表資料がご覧いただけます

日本の宇宙ミッションの課題(15周年記念イベント内ディスカッション)

松永:それではパネルディスカッション「日本の宇宙ミッションの課題」を開始いたします。
わたくし、司会を仰せつかりました東工大の松永と申します。
よろしくお願いします。
目的は、日本の宇宙ミッションの課題はなんだろうか。
ということを各登壇者から話して頂いて、今後日本の大学・宇宙機関・企業・政府官庁の関係方々及び一般の方も含めてどういう方向に進んで行くか?ということを各自で考えるきっかけになればいいなと思っております。
自己紹介をそれぞれして頂いたあとで、登壇者順番に日本の宇宙ミッションの課題を話していただき、登壇者+司会間で議論をしたあと、是非会場からの質問とか助言とか含めて議論をしていきたい。
それでは登壇者の方々4人、前に来てください。

:JAXAの森と申します。
よろしくお願いします。
私は修士を卒業した後に松永先生のところで助手をやらせていただきました。
2年間ほどだったのですが、そのときがちょうど缶サット1年目と2年目のタイミングでして、アメリカでの打上げにも参加させて頂きまして、さらにキューブサットの立ち上げというところまで参加させて頂いて、非常にいい貴重な経験となったと思っています。
今の活動にも生きていると思っています。
その後いろいろあって、JAXAが統合するタイミングで宇宙研に勤めることになりました。
そして、はやぶさ、はやぶさ2、ソーラー電力セイルIKAROSに携わり、さらにそれをうけて、OKEANOSという計画を立上げようとしています。
このように挑戦的なミッションを中心に活動しています。
今日は懐かしいたくさんのメンバーと共に閉塞感のある日本をどうやって打破するかといったことを議論出来ればと思っておりますので、是非よろしくお願いいたします。

船瀬:東京大学の中須賀先生と同じ研究室で准教授をしております船瀬と申します。
よろしくお願いします。
私はここにありますように2000年から2007年まで学生として中須賀研におりまして、その頃にちょうど東大でやった2機のキューブサットに携わりました。
研究室に入ったころは、ちょうど1つ目のキューブサットのエンジニアリングモデルを作る頃からプロジェクトに入りまして、ちょうど津田さん、酒匂さんの4学年下で入りました。
そのあと2つ目のキューブサットを打ち上げるプロジェクトでは、プロマネを務めさせていただき、2007年には大学を卒業しました。
このまま超小型衛星をやろうという選択肢もありましたが、私自身、深宇宙探査が好きでやりたくて、そのあとJAXA宇宙研に行きまして、はやぶさの運用、イカロス、はやぶさ2のプロジェクトにも携わりました。
縁があって、津田さんとはずっと一緒にやらせていただきました。
ちょうど、はやぶさ2の詳細設計をやっている頃に色々考えまして、このままはやぶさ2をやるのか?といろいろ迷いまして、結果的にJAXAを辞めて東大に戻ってきたということです。
私自身、超小型衛星で深宇宙探査をやりたいということがありましたので、ちょうど時代的にも超小型衛星がどんどん出来ることが増えてきているという時代で、これだったら自分がやりたいことが出来るのではないかなと思って大学に戻ったわけです。
大学に戻ったあとすぐに超小型機の深宇宙探査のミッションを立ち上げて、1つは既に打ち上げて成功しており、いまはさらに2機目の開発をしているという経歴になります。
以上です。今日はどうぞよろしくお願いします。

永田:北海道大学の永田と申します。
先程中須賀先生からUNISECの草創期の紹介を頂いた中にあった、ハイブリッドロケットグループというのを我々はやっておりました。
当時ハイブリットロケット研究会と言ってたんですけど、2001年に初めてハイブリットロケットの打上げ実験が行われて、というのが国内での小規模なロケット打ち上げ実験の最初なんです。
ですので、いま学生団体がいっぱい打上げ実験をやっておりますけれど、あれは元々ハイブリットロケット研究会が始めた実験のやり方をほぼそのまま踏襲されておるということです。
我々が打上げ実験を初めてやったのは2002年の3月なんですけど、実はそのとき中須賀研の缶サットが積まれておりまして、たしかその頃船瀬先生、学生でおられましたよね、あぁ、そうか、酒匂さんもおられました!
そのときはモーターは非常に綺麗に動いて高度1キロまで行ったんですけど、パラシュートが開かずにそのまま頭から地面に突っ込んで全長が3分の1になって戻ってきたという中で、データが全く取れないと諦めていたんですけど、そこが中須賀研の学生たちの神の手で潰れたICからデータを吸い出してフライトデータが取り出されたということがございました。
いま私は2015年からJAXA宇宙科学研究所の諮問機関として位置づけられている宇宙工学委員会の委員長をやらせていただいておりまして、その中でいろいろ課題となっていることの議論がここで出来るのではないかと期待しております。
課題解決に繋がるいい議論をしたいというふうに思っておりますので、今日は是非ご協力よろしくお願いします。

小泉:こんにちは。
東京大学で准教授を務めている小泉と申します。
船瀬先生の同僚みたいな形で一緒にいまもプロジェクト等をやらせて頂いています。
専門は推進系、特に宇宙の方の推進系をやっています。特に電気推進と小型推進をやっておりまして、大学院生の頃から小型衛星用の電気推進をメインで研究してきました。
その後、宇宙研へ行きまして、ちょうどその頃はやぶさ1が帰ってくるフェーズでしたので、そちらの運用、特にイオンエンジンの運用等を担当しました。
そこでは、船瀬先生や森さんと共に運用を行いました。
その後2011年から東京大学に戻りまして研究を進めると共に、船瀬先生と小型衛星の開発、特に小型推進の開発を進めおり、研究と開発を共に進めるスタイルでいます。
なお、今申しましたように私は昔から小型衛星用の推進機を行っています。
しかし、この場で申し上げるのが非常に気まずいのですが、これまでUNISECにはまったく所属しておりませんで、今日はその辺も踏まえて、その背景や理由等もお話が出来たらなと思います。
よろしくお願いいたします。

松永:それではパネルディスカッションを開始したいと思います。
最初は森 治くんからスタートして頂ければと思います。

森 治(JAXA)
発表資料

:私のプレゼンでは、まず宇宙研の立場からスタートして、日本全体の宇宙を元気にしていけるかというのを少し考えてみましたので話を聞いていただければと思います。
まず宇宙研でやっている宇宙科学、探査ミッションがどういった立ち位置にあるかということを自分なりに考えてみました。
日本と欧米で大きく2つの格差があるのかなと思っています。
1つめは技術水準です。
いろんな技術があるのですが、例えば通信系技術をとってみたいと思います。
はやぶさ2が仮に木星圏へ行って、通信をしたとすると、2Kbps、NASAのNew Horizonsが木星から通信すると38Kbpsということで、パッと見の外見ではわかりませんが、単純に20倍の差がある。
さらに資金規模にも大きな差があって、宇宙研で一番大きな中型計画では300億円、ヨーロッパRosettaでは3,000億円、NASA(JWST)の計画では1兆円とこれも1ケタ以上の差があります。
こういった格差の中で世界と勝負していかなければならないということで、では、その為にはどうしたいいかというと、もうこれしかない、新しい技術をリーズナブルに挑戦していくのが大事だということです。
これはみなさん共通かと思います。
いろんな挑戦、レイヤーがあると思いますが、ここで私は3つに整理してみました。
1つはピギーバックミッションでの挑戦。
これは主に大学が主体になると思いますが、キューブサットというアクティビティが当てはまってくるのかなと思います。
これを発展していくと、相乗り・副衛星ミッションによる挑戦となり、IKAROS、PROCYONなどが例としてあげられます。
一方JAXA宇宙研が進めているものは、主衛星での挑戦であり、2つのプログラムがあります。
まずは中型計画ですね。
我々はソーラー電力セイル、OKEANOSを立ち上げようとしていますが、これは過去にMUSESシリーズでやっていた実験機という位置づけです。
小型計画でも同じように実験衛星(SLIM、DESTINY)が提案されていますね。
これら主衛星ミッションによる挑戦では、姉妹機いわゆるシリーズ化によって総合的な技術実証が行われている。
例えば、MUSESシリーズの中でもはやぶさ1、はやぶさ2が一番わかりやすいかと思います。
どちらも同じ仕立てですよね。
はやぶさ1を実験機とするなら、はやぶさ2が本番機という位置づけになって、1に続いて2をやります。
実験機であっても本番機と同じようにやる、理学観測も同様にやる、実験機だからといって省略はしないということですね。
ただし、実験機では理学成果の保証は求めない、というよりも求めることは出来ないですよね。
はやぶさは500点満点ですが、これには理学成果は入っていません。
こういったやり方で実験機を実施してきている。
ポイントは繰り返しやるので、不確定要素が取り除かれ、信頼性を高められる。
何回も何回もやることによって、精度が高められていくといった考え方だと理解しています。
で、こういった考えに基づいて、ソーラー電力セイル計画というのを立ち上げようとしたのですが、立ち上がりませんでした。
なぜかというと、技術的に難しいのではないかと言われてしまった。
実験機をやるのになんで難しいと言われなければならないのか釈然としないものもありましたが、たしかに予算規模が大きいので、ある程度の規模の課題、特にソーラーセイルに関する個別実証については最低限潰しておく必要があるということで、まずそのためのミッションを立ち上げることになりました。
具体的には、イプシロンロケットを使った小型計画、ロケット代を含めて60億円という規模で提案したのですが、これでも高いと言われ、立て直してあかつきと相乗りで、ロケット代タダ、衛星代も安くして、15億円でやっと認められた。
今の小型計画は、ロケット代を含むので、やっぱり個別の技術実証では通らないっていうのがこのときの感覚から見てもそうだと思うところです。
15億円というのは非常に安い金額で、当時普通のミッションの金額で、例えばはやぶさ、あかつきは150億円なので、10分の1という規模になります。
これでどうやってやったのか例を挙げて紹介すると、まずバス部とミッション部について、インターフェイスを分けて、別々に作れるようにし、CDRという技術審査も別々でやりました。
次にミッション部に集中するため、バス部は手を付けませんでした。
バス部はメーカーさんにまかせて試作品も作らない。
本番用に1個だけ作る。極限まで簡略化する。例えば非標準品部品も使う。他のプロジェクトの流用品なんかもたくさん使います。
今の宇宙研の計画では考えられないですけど、当時信頼性について思い切ったことをやりました。
冗長性も要求しません。
そしてミッション部については若手職員や学生が主体的に開発を進めるということをやりました。
もちろん若手だけでやっていたのではなくベテランの担当者にも加わってもらい技術相談にものってもらっていた。
若手の職員や学生が中心となることで小規模でタイムリーな開発が実現できたと思っています。
人材育成にも効果があって、IKAROSの経験者が、はやぶさ2の主要メンバーになった。
UNISECのメンバーが多く携わっていたということ、これも言っておかなければなりません。
IKAROSにはUNISECのメンバーが非常に多くいて、IKAROSの成功に繋がった。
一方で当時UNISECに入っていない学生さんもたくさんIKAROSに加わっていて、後にJAXAの職員になって、宇宙研勤務となった人が8人もいる。小さな計画なのに。
こういった形で人材育成という意味でも非常に大きかった。
もう1個成功した大きな特徴として、事前の研究をしっかりやっていたということがあげられると思います。
IKAROSが立ち上る前にワーキンググループで活動していたのですが、この時代にたくさんの実験を行った。
例えば、大型膜面を展開するということに関して大気球実験を2回もやっていて、観測ロケットもやるということを何年もかけてじっくりじっくりやっているので、IKAROSは短い開発期間でも成功することができたと思っています。
まとめると、技術水準と資金規模の格差を埋める為には、挑戦がいる。
今日は主衛星からスタートして相乗りのところまで話をしました。
特に相乗りのところは大事だなと思っていて、規模の観点から考えても大学とJAXA宇宙研が一緒に活動できるというのは非常にいいところなのかなと思います。
思い切って信頼性も落とせ、若手・学生が活躍しやすいところだとも思います。
最近のロケットの高機能化、低価格化により、相乗りの軌道投入も非常に精度よく出来るようになってきたところなので、相乗りスペースミッションの枠組み、いまはないんですけれども、そういった枠組みも是非作って一緒にやれればというところです。
もう1個大事なことは事前検討、これは絶対じっくりやるべきだと、そうじゃないと単に無謀な挑戦となってしまうので、そうはならないように事前の検討をやる。
そしてここも大学とJAXAが一緒にやれる。ワーキンググループの活動が一緒に出来るといいなと思うところです。
こういった挑戦的ミッションで継続的に技術実証をすることで、日本が今後の宇宙科学・探査を先導すべきということで、私の話は終わります。

松永:ありがとうございました。では、船瀬君よろしくお願いします。

船瀬 龍(東京大学)
発表資料

船瀬:今の森さんの話は日本と世界がこういった宇宙理工学分野で戦っていくためにはいかに挑戦しなければいけないか、挑戦を続けなければいかないのか、ということだと思うのですが、私が用意したスライドは、現状は残念ながらそんな環境じゃないよ、というところから始めたいと思います。
私が認識している宇宙科学、宇宙理工学の現状認識というのは、本当に閉塞感しかないというところです。
これはどういうことかというのを自分なりに整理してみているんですけど、まず、ミッションの規模が大きくなっているというのが閉塞感の1つの要因かなと思います。
大きくなること自体そんな不自然なことではなくて、いろんなサイエンスの分野が出来てきて、それがミッションをこなすたびに成果をあげて、もっと高度なことをやりたくなるというと、ミッションの規模が大きくなるというのは当然の流れかなというふうに思います。
一方でそういうことをしていくと、国の宇宙開発全体の予算枠も限られていますし、宇宙科学全体でもある種の枠のようなものがあるということを考えると、当然ミッションの頻度は下がっていくということですね。
それぞれのコミュニティでやりたいミッションというのはどんどんやりにくくなってくる、少なくとも頻度は相対的に落ちるだろうと、で、そうなってくると、新しい技術をどんどん試すということは出来ないので技術の進歩のスピードは遅くなるでしょう。
世の中の普通の産業と比較すると宇宙の分野のイノベーションの速度がそんなに早くない、相当遅いだろうと思います。
その流れで次どういうことが起きてくるかというと、技術力の低下ということで、低頻度で大きなプロジェクトでメーカーに依存してミッションをやっているというとやはり若手の技術力は落ちてこざるをえないと思います。
昔はどうだったかと人づてで聞くところによると、観測ロケットとか気球とかで宇宙研の若い人が一緒のプロジェクトで手を動かしてやっていたと、で、うまくそこで人材育成がされて、それより大きな規模のミッションに繋がっていたというところがあるのかと思いますけど、いまはそうじゃない状況になりがちなのかなというふうに思います。
技術力の低下から予想されるのは、失敗率の向上、ということで、低頻度で大きなミッションだけをやっていると技術も上がらないし、失敗率は高くなってしまうということですね。
IKAROSやはやぶさっていうのは、一発勝負に勝った幸運なプロジェクトに思いますけれど、それはそう何回も続くわけではなくて、例えばASTRO-Hのようなことも起こってくるということです。
失敗率が増えてくると、最近の世の中の雰囲気として失敗が許容されないということがあると、ますますお金をかけて信頼性を上げなければならない、頻度が落ちるということで、どんどん悪循環になってくるということが今、起こってる、起こり始めていると私自身は考えています。
それでもなんとか挑戦的なことをやりたい、技術力を上げていきたいとすると、小規模なミッションをいかにうまくやるのか、ということになります。小規模なミッションというのは、短期で、低コストで、インハウス開発だということだと私は解釈していますけど、短期開発出来るとなにがいいかというと、高頻度に成果をあげられる、そうすると小さい規模のミッションでもタイムリーに成果を出せば、それが次の大きなミッションにすぐ繋げることが出来る。
あるいはPDCAサイクルを早く回すことが出来るので、超小型なら超小型で、どんどん進歩を続けられる。
あと、短期開発ですぐ成果がでるというのは、人のモチベーションにもつながってきていて、思いついたことをすぐに試してすぐに結果が出る、良くても悪くてもすぐ結果が出るという、世の中の普通の学術研究ってそういう流れでまわっているわけですけども、そういう世界に宇宙開発がなればもっと良くなるのかなというふうに思ったりします。
次に低コストであるということはどういうことかというと、リスクを取ってミッションに挑戦できるということで、これ自体難しいことに挑戦するという意味でのモチベーション向上にも繋がりますし、多少失敗があってもまた挑戦を続けられるのは非常にいいことで、最終的には長期スパンで見ると、かえって大きな成果が出せるんじゃないかと思います。
あとインハウスで開発するというのも非常に大きくて、メーカーさんに丸投げではなくて、自分で手を動かしてやるというのは、そのミッションやプロジェクトが自分ごととしてとらえられるということです。
私は初期のキューブサットをやっていましたけれど、それと同じように本当にこれに没頭することが出来る、で、モチベーションもあがる、そしてそういうことをやっていると、結果的に研究者やエンジニアの人材育成にも繋がっていくということで、こういう小規模なミッションをいかに上手くやっていくのかというのが今後の鍵になるのかなというふうに思います。
で、基本的には、UNISECでやっている超小型衛星の活動というのは、こういうことをやっているのかなと思っていますけれども、これがJAXAさんも含めて日本全体に広がっているかというと、そうではないと思います。
キーワードとしては、「速く、安く、自分の手でやる」とそういうミッションを進めていくということで、これをJAXAさんも含めて大学も一緒になってやっていきたいと思っています。
ただ、現状はそうなっていなくて、超小型衛星っていうと、大学が中心になってやっていて、それより上の100億円、数億円のミッションはJAXAがやっている、というように、ここの連携が今あんまりとれていなくて、この超小型からどういうふうに上のクラスに貢献があるかというと、技術の貢献はあまりなくて、人材はもちろんUNISECの卒業生がたくさんJAXAで活躍しているという意味では貢献はあるかもしれませんが、技術の観点ではまだちょっとないのかなと。
一方で逆の向きの矢印ですけれど、大きなミッションでどういうことが必要とされているかということが、大学のコミュニティと共有されていないなということで、この2つが(小型・中型ミッション(JAXA中心)と超小型のミッション(大学中心)が)分断されているような気がしています。
なので、これを超小型・小型・中型をくっつけていきたいなと個人的には思っておりまして、超小型クラスでやったことが、小型・中型に生かされて、小型・中型でやったことの成果を受けて、今後こういう技術が必要だということがちゃんと下まで降りてくるという世界を作りたいなと思っています。
超小型の規模で挑戦的な事をJAXAと大学が一緒になってインハウスでやると、こういうことが普通にやれるようになると思っています。
挑戦的なことというのは、人それぞれでいいと思いますけれど、私の場合は深宇宙探査というフィールドでやってみたいと思って活動しているということですね。
課題としては、連携が取れていないという意味では、JAXA、大学の研究者コミュニティーの意識を変えていかなければいけないところもありますし、こういう所に予算を付ける仕組みもなくて、国の宇宙科学の予算って、小型ミッションは何年に何回、中型ミッションは何年に何回と規定されていますけれど、もっと安いミッションをたくさんやるというところは全然定義されていません。
こういうミッションのニーズがあれば、その都度個別に予算を取っていかなくてはならないというのが現在の状況ですので、これをなんとかうまく実施するためのハードルを下げられないかと思っています。以上です。

松永:ありがとうございます。次、永田先生お願いします。

永田 晴紀(北海道大学)
発表資料

永田:推進系の立場からこういった閉塞感をどうやって打開していけばいいかという話をさせていただければと思います。
野心的で次の技術の芽が出てくるところから、段々洗練させていって大規模なミッションに昇華させていくというピラミッド構造をどうやって作るかということですが、結局数億円の海外ミッション参加・超小型探査機・観測ロケットがあまり機能していないので、閉塞感があるっていう話になっているんだと思うんですね。
いま、宇宙研の中で走っているのは、戦略的中型ミッションのところ、公募型小型ミッションのところ、そして海外ミッションは多少走っていて、大気球はだいぶ危なくなってきていて、多様な研究活動はかなり危なくなってきているという状況で、なんでこういうことになっているのかというと、先ほど船瀬先生から紹介がありましたけど、深宇宙周回軌道のところは、10年に3回やりましょう、小型衛星・小型ロケットは、10年に5回やりましょうといったことがもう決まっているんですよ。
で、これはこなしていかなければいけない。
それがすごく優先度が高くなっていて、数億円の海外ミッション参加・超小型探査機・観測ロケットの何をやっていきましょうが決まっていないところの予算っていうのがどんどん浸食されていくんですね。
なので、基礎研究にかけられる予算が段々減っていっているというのが実際いま起こっている状況だったりします。
なので非常に皮肉な展開になっているというふうな見方も出来ると思うんですけど、戦略的中型と公募型小型は予算獲得の裏付けとして線表にしっかり書かれているので、線表に書かれていない他のところにしわ寄せが行っているという状況がいまあります。
で、これをどうやって打開するのかというと、超小型探査機(ピギーバック)、超小型衛星(ピギーバック)、サブオービタルハイブリッドロケットを入れれば、多少ピラミッドが繋がるのではないかと思っているんですけれども、その1つの埋める種がピギーバックによる超小型探査機なんですね。
けれどもピギーバックで超小型深宇宙探査をやろうと思うと、主衛星が深宇宙に行ってくれないとピギーバックは行けませんので、そうすると深宇宙探査ミッションよりも高頻度でピギーバックの枠を獲得しましょうなんていうのは、基本的にありえない。
でも本当は超小型探査機(ピギーバック)のところを高頻度にやりたい。
ピラミッドの下に行くにしたがって頻度を高めましょうねというのが、ピラミッド構造の基本ですので、なんとか超小型探査機(ピギーバック)を出来ないかという問題があるわけです。
で、それを解決する手段としてGTOまで主衛星に連れて行ってもらって、GTOの一番スピードが出るところでキックすれば、それほど大きい増速量じゃなくても地球周回軌道を脱出できますので、ブランコに乗っている子供の背中を押すのはどのタイミングがお父さんが一番楽かというという話ですね。
地面に近いスピードが出ているところで背中をひょんと押してあげるのが、一番楽に押せるという物理の授業があったんですけど、それとまったく同じ話で、近地点でひょんと押してあげれば1キロメーター毎秒の増速度で金星とか火星まで行ける。
その程度の増速であれば、キックモータで作れるんじゃないかなということで、ただ、相乗りですので火薬を使ったり液体燃料を使ったりするのよりも、より安全なハイブリッドの方が主衛星から嫌だと言われにくいだろうということで、我々はその超小型深宇宙探査機を高頻度で実現可能に出来るかどうかという目的でGTOピギーバックとハイブリッドキックモータを組み合わせましょうということを最近始めております。
我々の研究室のハイブリッドロケットは今までずっと液体酸素で打上げられていたんですけど、これはストアブルではありませんので、長期間貯蔵可能な亜酸化窒素でやりましょうということを今考えております。
具体的にはこんな形になるんですね。
主衛星はプロキオンクラスだとこんな感じの重さと大きさ(60cm×60cm)になるのかなと、プロキオンは立方体の形よりはもうちょっと長かったと思いますけども、立方体の形にするとこんなボリュームになります。
その後ろに同じ重さくらいの推進機関がつくんですね。
で、4つパラレルに動かしてまして、なんで4つパラレルなのかというと、クラスタ化すると1機あたりの水力を絞れるので開発しやすいというのと、4つのモーターの水力をいじれば水力方向制御が出来るということで、このノズルを振る必要がなくて楽だろうということでバルブ制御だけで推力方向が変えられるというのも狙って、4つクラスタになっております。
なので総重量(170kg)はピギーバックとしてこれでギリギリかなという総重量になっているということです。
で、こういうプロジェクトを今後どう予算を獲得して動かしていくのかというところが頭の使いどころかなと思っております。以上です。

松永:具体的な提案どうもありがとうございます。それでは小泉さんお願いします。

小泉 宏之(東京大学)
発表資料

小泉:東京大学の小泉です。まず、個人的な話からはじめていきたいと思います。
実は、UNISECは学生主体の組織だとお聞きしていたので、今日も学生がわーっとたくさんいるのだと思っていたのですが、そのような出だしになったのですが、聞いていただければと思います。
先程の自己紹介の続きにもなるのですが、私は修士・博士課程の頃は、小型の電気推進機の研究をしていました。
ただ、推進機の研究と言っても、実際の研究内容は液体噴射とパルス放電ですね。
誤解を恐れず言えば、正直この頃まったく衛星の他機器には触れてもいなかったですし、知りもしませんでした。
その後、宇宙科学研究所へ行き、はやぶさのエンジン運用を行いオーストラリアでのカプセル回収を行い、ここで幅広いいろんな人たちと出会いまして、初めて衛星に触って運用するという経験ができました。
さらに言えば、推進系の中でも多くの装置がサブコンポーネントとしてあるのですが、それらサブコンポーネントを真面目に考え出した/真面目に認識したのもこの頃です。
この経験の結果、今、東大の研究室としては研究だけでなくプロジェクトを一緒に進めるような体制となっています。
日本の宇宙ミッションの課題として、まず1点目、コミュニティ間の隔絶と書きました。
自身の経験を振り返ってみて何が一番言いたいかというと、修士・博士課程という長い期間を通じても、推進系サブコンポや衛星そのものに関して無知であったという点、さらに、それで問題がない/それが当たり前だったという点です。
私が15年前に戻って、当時の自分、修士・博士課程の頃の自分に会ったら、たぶん小一時間は説教すると思います。
先程ちらっと言いましたが、当時の自分は衛星用のスラスタをたしかに研究しているはずなのですが、衛星ミッションはまったく知らない。
推進系サブコンポーネントのことも全く知らない。例えば電気推進で言えば、電源もガス系もコントローラーもなにも把握してない。
さらに言えば、コミュニティで一番近くにいる化学推進、あるいは永田先生のロケット等も一番近いところにいるはずなんですけれど、そちらのこともまったく知らない。
当時の自分はそのような状態でしたし、それが大きな問題であるという認識もなかったです。
実際、どういうスタンスでいたかというと、衛星に関しては誰かが使ってくれるでしょうというスタンス、サブコンポーネントも誰かが作ってくれるでしょうというスタンス、隣のコミュニティといっても別世界というスタンスだったと思います。
こういうスタンスでいた結果、なにが起こったかというと、自分のスラスタは自分で売り込みに各所を歩きまして、最後中須賀先生のところで拾って頂いて、ほどよしで使って頂いたというのが最初です。
サブコンポーネントも昔は誰かが作ってくれると思っていたら、結局自分で作る羽目になりました。
化学推進等の別世界の話と思っていたこともいつの間にか自分の研究になり、RCSを自分で作る状況になりました。
それで、この頃の反省を生かして、衛星/サブコンポーネント/近隣分野のことを知らなければ何も出来ないという教訓を生かして、現在は研究とプロジェクトを共に進めるというスタイルが確立されています。
それで、このような現象の一番の原因がコミュニティ間の隔絶だと思っています。
例えば、このスライドは昨年のISTSのプログラムの一部です。基本的に毎回、a) Chemical Propulsion、b) Electric Propulsionと、化学推進と電気推進は学会に行くとプログラムから完全に分断してしまうわけですね。
これは推進系という小さい枠の中でも分断しているということです。
他に、ロケット輸送系も別ですし、衛星系も別。もちろん分野中での専門性を高めることは重要ですが、それら全分野を統合しなければ衛星ミッションは出来上がらないので、この垣根を少なくしなければいけないというのが一点目の課題です。
これはよく言われる縦軸・横軸をどうこうしなさいとよく言われる話です。
私がJAXAにいた頃も新しい試みとして横軸を通すことを目的としてマトリックスを作る仕組みが押し進められていました。
ただ、正直、私が思うのは、横軸・縦軸が大事というのは何も間違いはないですが、言うだけ/呼びかけるだけではなにも機能はしないということです。
方法論として、横軸を機能させるために大事なのは、やっぱり横軸を知らないとにっちもさっちもいかない場所に叩き込むと、そうすると仕方なく、私の様に横軸をやりだす、というかやらざるを得ない。
そういう必死にやる環境が一番大事だと思っています。
そういう意味では今回は課題ということで投げかけたのですが、私なりの答えとしてはやはり必死な環境、プロジェクト等にぶち込んで、どうしても横軸をやらなければいけない状況に落としこむのが一番いいと思っています。
その観点でいうともう1つ言いたいことがあり、プロジェクトと言っても、教育用のプロジェクトというのはあまり良くないなと思っています。
結局教育用の衛星づくりというのは学生実験と同じようなもので、答えがある状態です。
どうせどっか行けば誰かが知ってる答えがあるような状態でいくというのがあります。
先程のセッションでもありましたように答えを知らない所に突っ込んでいくのが大事だと思っておりますので、ガチで新しいミッションをやる!というスタンスでプロジェクトに放り込まないと意味がないかなとは思ってます。
次に2つ目の課題として、コミュニティ意見表明の欠如と書かしていただいきましたが、こちらはプロジェクトを如何にして作るかという話です。
たしかに小型衛星は安くプロジェクトが出来るので、プロジェクトに参画させるという観点では非常にいいと思っています。
ただ、小型衛星のプロジェクトはいくら安いからとはいえ、船瀬先生のポケットマネーで「はい、PROCYON」と作ってくれるような額ではありません。
ま、中須賀先生ならどうにかしてくれるかもしれませんけども。
たくさんの小型衛星プロジェクトを生み出せるロジックをつくらなければいけないと思います。
現状を見てみると、日本で大きなプロジェクトはJAXAが主体で進めていますが、JAXA以外の人がプロジェクトをやる道筋というのがあまり見えない。
JAXAプロジェクトへ大学が関与することもありますが、あまり大きな関与ではない認識です。
一方、大学等が研究の一貫として独自に行おうとしても、JAXAがやるようなプロジェクトの額、数億円、数十億円、数百億円は、研究の立場からはなかなかほど遠い。
このような中、最近、理学コミュニティと交流をとる機会が多くあり情報共有ができているのですが、こちらはだいぶ違うシステムを持っているなというのを感じました。
具体的に言うと、理学系でも、もちろんいろんな人がいいます。
あれやりたい、これやりたい、ミッション機器やりたいとあるんですけれども、あるコミュニティがあって、ま、学会ですが、そこで意見を集約して私たちはコレしたいと一本化、あるいは小さくまとめて提出して意見表明を行っています。
例えば、具体的に私が知った例の1つ日本惑星科学会の場合ですと、最初に宇宙研からRFI(Request For Information)というのがでまして、どんなことをしたらいいですかね?と聞きます。
そのあとに学会内でコミュニティを集約して調製して、最終的にコミュニティとしてオフィシャルに意見表明する。
そうするとコミュニティはそれなりの規模ですので、JAXAやISASとしてもおいそれとは無視できない状況になる。
理学系では自分達自身で衛星を作らないと思いますが、このように意見集約をして出すの言うのが、非常にシステムとして優れているなと感じたところです。
一方で自分の電気推進分野に関して言うと、いろんなスラスタをやっている人がいるのですが、だいたいこれが10年経っても20年経ってもバラバラですね。
自分のやりたいことだけをやっているので何か1つに集約されることは中々起こらない。
結局、人を作る意味でもプロジェクトが大事なので、何とかしてプロジェクトを動かしたい。
先ほどの船瀬先生の発表でもありましたが、小型衛星のプロジェクトが大事だと思うのですけど、それを実現させるためにもコミュニティの意見を集約して、JAXAとしても無視できない形に持っていくというのが大事なのではないかと。
これまでのところは、たぶん中須賀先生みたいな力のある強い先生が押してくれて、その結果いくつかの小型衛星プロジェクトが実現したのかもしれませんが、それだけに頼っていてはダメだと思います。
コミュニティとしてうまく意思を集結して大きな組織を動かすということが大事なのではないかと思っています。以上になります。

松永:みなさんの意見をまとめましたが、森くんからは、「欧米の技術水準と資金規模の格差を埋めるために、新技術をリーズナブルに挑戦する」べきだ、しようと。
船瀬くんからは「基礎研究の方向性に一定の影響を与えるような研究者コミュニティーの意識を変えて、それで予算を付ける仕組みを作りましょう」と。
で、永田先生からは「GTOピギーバック+ハイブリッドキックモータにより、高頻度・超小型深宇宙探査機を生み出す」、最後小泉さんからは「コミュニティ間の連携と意思表明を促進しないといけない。
そのためには、なにかガチなプロジェクトを作っていくべきだ」というふうなことをおっしゃられました。
では、質疑応答の時間に入りたいと思いますが、時間もありませんので、なにかありましたらどうぞ。

永田:森先生のですね、提案、すごく大事だと思っていまして、僕じつは本当にこれやらなきゃいけないと思っているんです。
ただ、これを出来るスキームがいまなかなかなくて、例えば、これ前にもお聞きしたと思うんですが、イカロスのミッションがいま立ち上がるか?というと、いま立ち上げるスキームがないんですよね。
それはなんでかって言うと10年に3回中型、10年に5回小型というのが、もう決まっていてこれはこなさなきゃいけないというふうに・・僕、これは誤解だと思っているんですけれども、JAXA全体としては宇宙研は我々も協力していい科学成果を生みださなきゃいけないという思いでJAXA全体も支援してくれているんですよ。
ただ、予算を獲得する戦略とか考え方、文化っていうのが旧NASUDAと旧宇宙研では違っていて、工程表でこういうふうなことをやっていきますというようなことをがんとやって、それで予算枠をある程度獲得するというのは、たぶん宇宙研の文化にはなかったと思うんですよね。
で、そういう戦略で予算を獲得するっていうのを宇宙研の研究者コミュニティが受け取ったときには、研究者の我々っていうのはすごくみなさん真面目なので、これはもうこなさなきゃいけないって、ガチガチに優先度が高まってしまって、工程表を基盤として予算を獲得した立場の方々が思った以上に研究者コミュニティはこれは金科玉条であると受け取ってしまって、双方の文化の違いと誤解とがあいまって、いま、かなり閉塞的な状況になっていると僕は思っているんです。
なので、宇宙研側も工程表っていうのは金科玉条じゃなくて、やりたいことがあったらどんどん提案していって、枠がないところからも予算の獲得を目指せばいいんだと僕は思っているので、是非次のイカロスミッションのような規模のようなものを是非出して欲しいというふうに思っているんです。
それが今回森さんに出ていただきたかった理由の1つなんですよね。
あともう1つは、小泉先生がおっしゃったコミュニティ間の連携と意思表明、これが理学と工学で文化が全然違うなというのはまったくその通りで、理学の方っていうのは意見を集めてなにかしらミッションに仕立て上げないと論文が書けないのでまとまるんですよ。必要に迫られて。
でも、工学の我々っていうのは、自分で出来ちゃうので、まとまらなきゃいけないっていう切迫感がないんですよね。
なのでまとまらないんです。
ですので、その差が文化の差なんですけど、それが工学と理学の取り組み方の差として出ているんだと思います。
で、ここに絡めて1つ提案したいのが、いま、我々は大学宇宙工学コンソーシアムですけど、是非理学のチームを入れたいと思っていまして、大学理工学コンソーシアムにならないだろうかと常々考えていて、で、理学屋さんにも入っていただいて、もっとクリエイティブでこれから本当に必要となるようなミッション提案が出てくるのではないかという期待もあって、是非そういう方向も考えて欲しいと思っています。以上です。

:挑戦的なミッションは3つあるとお話ししましたが、主衛星でやるやり方と相乗りでやるやり方と超小型のキューブサットクラスでやるやり方と、それぞれやり方が違っていて、いまご指摘いただいたのは、イカロスでやった相乗りクラスのことと思います。
さっき(大学とJAXAの)断絶って話がありましたが、溝の中間を埋めるのにはいいパスだと思っていて、そういった相乗りミッションでやると規模的にもちょうどいいとこだし、まず最初のきっかけはそこから始まらないと。
いまは、この断絶をなかなかうまく埋められていないと思っています。
是非やるべきだと思っていますが、いままで相乗りっていう考え方がなくて、(過去に)宇宙研ではミューファイブロケットがあって、そのミューファイブロケットとか目一杯能力を使ってプロジェクトを立ち上げてしまうので、たぶんそういうことにならなかったと思うんですが、最初から相乗りがあるっていうのを前提にミッションを検討すべき。
いまロケットのコストも安くなっていますし、複雑な打ち上げ方が出来るようになっていますので、10年に3機、10年に5機という主衛星ミッションがあるならば、そこの相乗りを期待して新しく突っ込んでいくべき。
例えばイカロスの場合は川口先生ががんと言って立ち上げたと思いますし、プロキオンであれば中須賀先生と船瀬先生がすごく苦労されて立ち上げたと思います。
そういう有力な人がいつもいるとは限らないので、最初から枠があることを利用して、相乗りである程度やって見通しをつけておいてから中型とか小型計画をやる。
まずは相乗りからやればそんなに難しくはないのではないかと思っております。
現状の仕組みではたぶん足りないので、まずは大学とJAXAが一緒に出来る土壌を作らないと厳しいかなと思っていて、その最初のきっかけにはイカロスの実績も考えると相乗りでやるっていうのはコストも落とせるし、いままで宇宙研にないような作り方、信頼性を一気に変えるようなことも出来ると思い、そういうことに挑戦していくことが最初のきっかけかなと思っています。
なので、相乗りの枠組みを作る、ロケットの能力を目一杯使わずに相乗りをやるという覚悟をしていくことが大事なのかなと思っております。

松永:いま言ったような枠組みを、私は宇宙研にいた時に提案してたんですが、私の力不足で消えてしまいました。
小泉さんが指摘されたように衛星とロケットの間だけではなく、ロケットの推進のサブシステムだけでも断絶があるというご指摘だったと思いますが、UNISECでは、実は衛星とロケットが最初から集まって、うまくいっているかどうかはともかく、目標としては一緒にやっていこうという形で、学生同士から動いています。
小泉さんは、ガチなプロジェクトが起きればいいと言われていましたが、その他になにかありませんか?

小泉:解答は持ち合わせていないんですけど、UNISECはそういう意味で素晴らしい組織だと思います。
ただ、念の為1つだけ言いたいのは、そういうコミュニティをどんどん作っても、それはよろしくないと思っていまして、大学の教員の先生がいらっしゃると思いますけど、大学の教員でありがちなのが、段々手が広がると、なんとか学会、なんとか学会、どんどん入る組織が増えて、どんどんそこの仕事が増えて、研究はなにもやらないっていうのが、陥るジレンマですので、組織を乱発するのは、出来るだけ絞りたいっていつも思ってますので、またそれも解にはならない。
プロジェクトをやると、否応なしに横を見るというのだけで、私はそれがって言ったんですけども、ただ1つあるのは学会なんかでいつも化学推進と非化学推進(?)はあたかもいつも仲が悪いかのように分けられているんですけども、すべての学会がそういう分け方じゃなくて、学会ごとに分け方を変えるとか、そういうのでもありかなと思っています。

松永:船瀬君、なにかコメントありませんか?

船瀬:私から見て推進の研究の人って、小泉先生は非常に稀で衛星に載せるってことを意識して研究されているので、そういう人が身近にいて本当によかったなと思うんですけど、学会にいて思うのは、推進系のセッションとかよく聞きに行くんですけど、そういう意識を持ってやられている方っていうのは意外と少ないなということで、なんでそうなのかなとずっと考えているんですけど、衛星に載せて宇宙で動かさなくても研究者として評価されてしまうというかそういう仕組みも要因なのかなと思っています。
地上の実験で基礎研究をやって、成果が出て、論文書いて、評価されると。
結局それで満足出来てしまうし評価される。
そこから先、泥臭いことやって宇宙へ打ち上げなくてもいいと、そういう状況があんまり良くないというのと、逆にさらに悪いのは宇宙に持っていくためにいろんな泥臭い仕事があるんだけども、それ自体があんまり評価されない、大学で評価されないという、そういう状況もあって、なかなか小泉先生の様な人はあんまり生まれにくいのかなと私は見ていたんですけど、そのへんって、どうですかね?

小泉:今まさにおっしゃられたようにスラスタの研究だけをしていれば、論文を書けるというのは事実です。
逆に、むしろプロジェクトをやってもプロジェクトが論文にならない。
本当はプロジェクトをやって、実際のものを知らなければいけないところが、スラスタの細かいところを突き詰めないと論文を書けなくて、その論文を書けないと大学の教員にもなれない。
この状態があるので、むしろスラスタのみをやっていても論文を書けるというよりは、スラスタのみをやってないと論文が書けないという状況です。
別の提案としては、プロジェクトをやっていてもきちんと評価、やっていてもという言い方は良くないですけど、プロジェクトをやっていることがきちんと評価される仕組みが大学というかアカデミアのコミュニティ内で存在しないといけないんじゃないかと。
論文による評価というのは、理学系から入ってきた文化だと思っています。
もちろん、歴史的にそのようなシステムが洗練・構築されてきたおり、そこでうまく回っているとは思いますが、工学系でも全く同じ方法では難しいところも存在すると思います。
実際に使ったとかのデモンストレーションが重要なところがあると思いますので評価方法を少し変えていくというのは一つ手かなと思っています。

松永:だいぶ時間も迫っておりますけど、フロアからもしご質問・ご助言等がありましたら、あっ、八坂先生お願いします。

八坂:どうもありがとうございます。
実は一番最初、中須賀先生の発表が元気よかったもんだから段々暗くなってきた。笑い。
これは実際世の中に出ていらっしゃる方がね、お話になるからこうなるんだと思うんですけど、私なんかほとんど仙人みたいな生活になっているわけなんですけれども世の中見てますと一般的にそうなんですよ。
新聞とかいろんなマスコミの報道を見ていても、いま元気いいのはベンチャーのどういったのが出てきたですとか、あるいは月とか火星とかこれはあの他人事のように書かれるわけなんですけど、ISSに宇宙飛行士が行ってもあんまり取り上げられなくなりましたよね。
でね、はっきり言って、その一般の人から見て血沸き肉躍るというか、そういったのがね、出てきてないんですよ。
これは十数年前は全然違ったと思うんです。
みんなこれは面白そうだな、是非頑張って欲しいと思うものがいっぱいあったんです。
で、いまあるのは、せいぜい小型衛星でこんなことやったよというのくらいでしてね、これでまぁなんとか宇宙の意識を、息を、ある程度保っていると思うんですけど。
でも、みなさんのレベルだとそれ以上のことをやらなければならないということでしょ。
それで1つね、私の見方は、いまコミュニティの間での合意づくりとか、あるいは政府の中でどうやって予算を確保するかとかそういった話なんですけど、一般の人をね、是非味方にするようにして、一般から、あれいいじゃないか!なんでやらないの?というような話が持ち上がるような形を作ったらいいなと思うんです。
それで永田先生が宇宙工学委員会の委員長だとおっしゃっていた、これね、すごくいい立場なんですよ。
それで私は前からちょっと言ってるんですけど、宇宙工学委員会の中には面白いテーマがいっぱいありますよね。
棒にも箸にもかからんものから、これは面白いというものから、いろいろあって、それ当然あって然るべきなんですよ。
ところがね、世間一般それ知らないんです。
どういったのがネタとしてあるんだっていうのを知らないんで、何も言えないんですよ。
ですからね、どうですかね、宇宙工学委員会の議事録を全部一般公開、細かく公開しちゃうんですよ。
で、こういうのがありますよってそれを世間の人に見てもらって、それで、あっ、こんな面白いのものがあるのに、なんでやらないの?って言うのが一般の中から出てくるように持っていくと。
持っていくというか、当然そうなりますよね。
こういう面白いのにお金を使わないっていうのは、おかしいなぁ。これは文科省が悪いのか内閣府が悪いのかとそういう話になってくるんでしてね、そういった手が1つあると思います。
それから小泉先生がおっしゃった理学との違いというのもそこにはそういう面がありましてね。
理学はコミュニティ広くから意見を吸い上げてますからね、わりあいそういう世間の動向に敏感なんですよ。
工学委員会は昔からあんまり機能してないんです。
ですから永田先生が今委員長ならば、一番いい機会じゃないかと思うんで、是非みなさん協力してそういうようにお願いしたいと思うんですよ。よろしくお願いします。

松永:ありがとうございました。
時間も過ぎましたので、まとめっていうことで(発表資料を指して)私もこのようなことをやろうとしていますけれども、時間もないので全部飛ばしまして、要するに本当に必要なのは真に新しい発想なんだと思うんですね。
それはなにかっていうと、いま八坂先生が言われたみたいに、何かよくわかんないんだけど、簡単ではなさそうなんだけど、なんだかワクワク面白そう!特に専門家が虫酸が走って思わず否定したくなるような概念なんですよね。
そういうのを我々が提案して実施していきたいと思っております。これが実は20年前ですね、CanSatだとかCubeSatが提案されたときは、実はこういう状態だったと思うんですね。
その時NASDAの人だとか宇宙研の先生がおられてCanSatとかやっても、小さすぎてまともなミッション出来ないよ、はっきり言っておられました。
ですからその時、当時誰がこの今驚くべき状況を予測したか、誰も予測してなかったと思うんですね。
ですから今の状況でたぶんCanSat、CubeSatのようにあっけにとられるようなことを提案されたら、たぶん完全否定になると思います。
ですからまさにその想定外で、出口イメージなんてくそくらえ!なんていうような凄いものが必要だと思います。
つまりこういうのはね、万に一つしかないんですが、具体的な真の発想を生み出すべきだと思っております。
これが社会への本当の貢献かなと思っております。
以上強引にまとめましたが、どうもありがとうございました。
登壇者の皆様どうもありがとうございました。

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