1.UNISEC学生理事に立候補した理由
私は東工大の松永研でCubeSat開発に参加し,大学からはじまる宇宙開発の最先端に関わってきました.本当のところは,CubeSatのシステム設計や,コンポーネントの詳細な設計は私がここに来る前にほぼ決まっていたので,試験や調整ばかりの参加でしたが,幸いUNISECには他にも,ARLISSやUNISECワークショップなど様々なイベントがあり,多くのみなさんと楽しい時間をすごすことができたと感じています.大学の枠を超えて活動することでお互いを高めあったり,新しい考え方を取り入れたりすることができ,大学による宇宙開発を本格的に進めていくためのしっかりとした基盤ができてきたと思っています.
そんなUNISECが設立された当初,私は学部の4年生でした.いくつかの大学は,すでにUNISATという組織として活動していたそうですが,宇宙工学の全分野にわたって,広く協力体制を整えようという考えの元,UNISECと名を変え活動の場を広げていこうとしている,まさにその時でした.私は当時何も知らない4年生でしたが,何か大きな事をしてやろうという勢いを実感として感じていました.「自分はUNISECの一員として,大学による本格的な宇宙開発の可能性を切り開いていこう.」と,漠然と考えるようになっていました.
2003年の東大,東工大によるCubeSat打ち上げは,UNISECの力なくしては成功しなかったと思います.UNISECワークショップのような発表会では,お互いの衛星の事を知るばかりでなく,交流の場として,プロジェクトの進め方や開発の裏話などを聞くことで良い刺激を得られたと思いますし,打ち上げに関する法律的な手続きを共同で行うことで,効率的にすすめることができたと思います.また,Come
Back Competitionを毎年行うなど,代替わりの激しい大学における技術継承を非常にたくみにこなしてこられたのは,UNISECのひとつの大きな成果だと考えています.
しかし,NPO法人化3年目を迎える今,あのときに感じた勢いは,正直なところあまり感じられていません.UNISECとしての活動には積極的に参加してきたつもりですが,昨今の宇宙関連の学生組織の発展は素晴らしく,そのひとつひとつに私はあまり関われていませんので,単に私がそういう勢いのあるところにいないだけなのかもしれません.それにしても,複数の研究室が共同で,何か大きなミッションを遂行していくというような,当初描いていた理想像には,まだ届いていないような気がします.
私は,東工大の研究チームにおいて,学生の意思をまとめ,意識を高めていく中で,自分なりのUNISECのあるべき姿というものを常に考えてきました.もちろん,UNISEC初代学生代表であり,研究室の先輩でもある宇井さんには,困難にぶつかる度に相談にのって頂きました.東大の中村さん,慶応の成田君とも何度も意見を交換してきました.
そのような中で培ってきた,私なりの「UNISEC論」を,今年度ぜひ実行に移してみたく思い,学生代表に立候補しました.
その「UNISEC論」については次の項で詳しくお話ししたいと思います.
2.学生理事になって実現したいこと
UNISECの目的については,先ほど紹介した宇井さんが以下のように述べられています.
−UNISECの理想的な姿は,同じ目的・価値観を「共有」したメンバーによる共同体を形成する事で「規模」によって得られるメリット,または団体(研究室)を超えた融合によるメリットを生み出す事を目的とした組織であるべきである.
まさにこのとおりだと,私自身も考えています.このような目標をもとに,現在までのUNISECの活動を振り返ると,「理想はあるのだけれど,なんとなく前に進まない」現状が見えてきます.
つまり,得られるメリットが,「何のためのメリットであるのか」という点です.確かに,規模が大きいほど,また研究室間での協力が大きいほど,メリットはあるでしょう.しかし,誰かが一方的に恩恵を受けるだけのメリットであれば,それは真の意味での協力ではないと言えます.
衛星技術のさらなる向上のために技術交流を行おうと言った時に,単にある団体が技術の提供を受けるだけであれば,誰が情報を提供するのでしょうか.もちろん,このような活動が必要であることは私も認識しています.しかし,双方のメリットをよく考えなければ,事はスムーズには進まないでしょう.そのような意味で,「理想はあるのだけれど,なんとなく前に進まない」という言葉を使ってみました.
何でもそうだと思いますが,一方通行というのはお互いのためにならないと思います.技術提供を受けるだけでは,受けるほうの開発に対するモチベーションもなかなか上がらないのではないかとも思います.
このような視点にたつと,より深い洞察が得られます. 宇宙開発は,社会全体に夢を与えるものだ.と,よく言われています.しかし,もっと大切なことは,宇宙開発に関わる人自身が,宇宙への夢を大切に持っていなければならないということです.自分たちが夢を持っていなければ,どうして他人に夢を与えることができるでしょうか.
私は,そもそも人は宇宙開発そのものにロマンを感じるのではない,とすら思っています.宇宙開発が魅力的であるのは,宇宙開発に携わる人が魅力的だからなのです.何千人という数の人が,たった数秒間で終わるロケットの打ち上げのために,どれほどの努力をしたのか.宇宙から送られてくる1枚の写真の中に,どれほどの人の夢がこめられているのか.宇宙から送られてくるモールス符号を,ただの音だと思ってしまうならば,そこからはなんの感動も得られないでしょう.そのモールス符号の奥にある,開発者の並々ならぬ努力を共感できたときに,人は感動するのではないでしょうか.
もう一度確認したいと思います.参加者自身が夢をもっていなければ,宇宙開発だろうと何だろうと,人を感動させることはできないのです.
私は,UNISECはまず何よりも,参加者ひとりひとりがUNISECの一員であるということに誇りを持てるような組織であるべきだと考えています.
私は,UNISEC全体に共通のひとつの目標は不要だと考えています.まず,このことを全員が深く理解することを,私の最初の目標としたいと思います.
UNISECではCanSatをやっているから自分たちもなんとなく参加する,というような単純な発想は,できるだけ早いうちになくしていきたいと考えています.何でもいいので,自分たち自身の目標があることが大事だと思います.カムバックの研究をしたい,自分たちの研究成果をロケットに載せてみたい,みんなでモノをつくる楽しみを感じたい,などなど.大学院生がCanSatを開発する目標と,高校生がCanSatを開発する目標は違っていて当然ですので,何かひとつ自分たちの目標を明確にして欲しいと考えています.それが,自分たちひとりひとりがUNISECの一員であるという自信につながるはずです.
では,UNISECの当初の目的である,規模によるメリットはいったいどのようにいかしていけば良いのでしょうか.
私は,それぞれの参加団体が個々の目標を達成する過程に,協力することで双方のメリットが得られると判断されるならば,ぜひ共同でプロジェクトを立ち上げるべきだと考えています.
重要なことは,このプロジェクトでは何を達成したいのかという点を,それぞれがしっかり持つことです.その上でプロジェクトをスムーズにスタートさせることが,UNISECの最大の役目であると,私は考えています.
具体的には,それぞれの参加団体の将来的な目標を聞き,これらをUNISECビジョンという名のひとつの図にまとめてみたいと思います.この図の中には,各研究室が目指す方向性や,現在も進んでいるUNISONプロジェクトの目標が含まれる予定です.この図からは,2つの有益な知見を得られるのではないかと期待しています.ひとつは,各団体が,UNISECという大きな流れの中で,確かにその重要な役割を担っているということ,そしてもうひとつは,この図の中から,お互いの目的にかなった協力ができそうな団体が次々と見つかってくるのではないかということです.
UNISEC全体の中での自分たちの目標を確認し,自信を得た上で,好ましい協力関係を続けていけば,UNISECは必ず,日本の社会に大きな貢献ができるはずだと思いますし,参加者ひとりひとりも,その達成感を得られるだろうと思います.
3.自己アピール
本格的なものづくりの経験をしたのは,大学に入ってからです.それまではそういった経験が全くなかったのでいろいろ苦労したこともありますが,一歩一歩着実に乗り越えてきたと自負しています.その中で,専門以外の分野にも興味を持ち,直面している課題にのみとらわれるのでなく,もう少し広い視野を持って課題に取り組むという姿勢を,(徐々にですが)できるようになってきたのでは?と思っています.
大学という場所は,そういう意味では最も恵まれている所だといえます.工学,理学,そして社会科学,芸術など宇宙に少しでも関係するならば,その理想を比較的容易に共有することができるからです.最先端の宇宙科学,奇抜なメカニズム,前例のないエレクトロニクスシステム,宇宙に関する法,政治,経済,哲学やアートにいたるまで,本当に様々なアイデアを持った学生がその夢を共有できるということは,それを実現できる土俵があること,そして行動力をもった仲間がたくさんいるということだと思います.
「目標に向かって努力すること」,「多くの仲間と夢を共有すること」が美徳だと思っている,ちょっと古い価値観を持った人間かもしれませんが,UNISECに所属するみんなのために努力したいと考えています.よろしくお願い申し上げます.