ゴミデータを並べて宝と化す
語り手:居相政史(いあい・まさふみ)
● センサ系お仕事開始
センサ系は、打ち上げて衛星が機能しはじめてから、やっと仕事を始めることができます。しかし、精度の悪いセンサを使っていますから、センサ出力の数値を鵜呑みにすることはできません。そんな中で何をどう処理して解析していけばよいのか、知恵を絞りました。
データを処理する場合には、通常、数学モデルと測定データとの比較を通して、何か結論を導き出そうとします。モデルとデータの両方が正しい場合に、意味のある解析ができるわけです。例えば、ジャイロの場合は、衛星の回転運動の数学モデルとの比較となるわけですが、この場合は、数学モデルはかなり正確な答えを出します。しかし、残念ながらジャイロの精度が悪いために、測定データの値は信用できませんでした。もちろん、変化したということはわかるので、たとえば太陽電池パドルが展開したときの値変化は示せるのですが、数値自体が正しいかどうかわかりませんでした。
● 温度センサデータから見つけた宝
温度センサは今回使った中では、精度がよいとは決していえませんが、一番信用できそうなセンサであり、打ち上げ環境や宇宙環境を考慮しても、性能劣化は考えにくいものでした。しかし、こちらは数学モデルのほうが問題でした。温度に関するモデルでは、数式内のパラメータをほんの少しいじるだけで、答えとして求まる温度が非常に大きく変化するのが一般的です。しかも、そのパラメータも、はっきり分かることはまれで、分かってもかなり広い幅をもつことがほとんどです。そうなると、何が起きるかというと、数字をほんの少し変えるだけで、どんな結果(温度)でも出せてしまうわけです。つまり、例えば、ある箇所が20度になったとして、その値に頼って結論を導き出したとしても、恣意的な結論と言われかねないわけです。
そこで、太陽−地球間の距離変化に伴う衛星温度の変化に目をつけました。地球と太陽の距離は一年中同じというわけではなくて、軌道の関係で近くなったり遠くなったりします。キュートの温度もそれにあわせて変化しているのではないかと思い、データを処理してみたら、地球と太陽の距離の変化にぴったりとあったんです。下のグラフでMeasが測定値、Theoretical(Simple)が太陽地球間距離の影響を考えなかった場合、Theoretical w/Dist. Effectが距離の影響を考慮した場合です。温度の振れ幅が10℃ぐらいと大きいので、訳の分からない変動がデータにのっているという風に思っていました。しかし、距離の効果を入れて理論曲線を書いてみたところ、見事に測定値がその曲線を中心に分布しているんです。

温度変化のグラフ
「太陽までの距離の影響が測定できてるじゃないか!」と興奮したことを覚えています。ちなみに、5月21日付近に急激に温度が落ち込んでいますが、これは衛星が地球の陰を通過するようになったためです。
他にも、温度分布と太陽電池の発電量の分布の類似性や、地球を一周するときの特徴的な温度変化に着目して、いろいろいじくってみました。見る目がなければ、ただのゴミの山かもしれないようなデータの山から宝を見つけ出すような作業が自分は好きで、「やった!」と思える瞬間はこういうときです。
しかし、考えてみればこういう宝を見つけることができたのは、キュートが長生きしてくれてデータを送り続けてくれたからです。長生きしてくれて本当によかったです。
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