太陽フレアで危機一髪!
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証言:宮下 直己(みやした・なおき) 電池電圧が下がっていると気がついたのは、11月4日の夕方のパスでした。その翌朝のパスでデータを見ると、更に電圧が下がっていました。太陽が当たっているはずなのに、充電されず、電池から多くの電流が内部回路に流れていることが分かりました。開発当初から携わってきていましたから、この電流値では、数時間後にバッテリーが枯渇し、機能が停止すると思いました。そこで覚悟を決め,メンバーにもその旨を連絡しました。その朝のパスで消費電力を抑えるコマンドを送りまして、午後のパスまで祈るように待ちました。午後のパスでは、バッテリーが枯渇して電波が聞こえてこないか、聞こえても最後になる可能性があり、メンバー全員で電波を受信しました。しかし、低消費電力モードが功を奏し、見事復活したデータをCUTEが送ってきてくれました。本音を言うと、もうだめかと諦めの気持ちがあったのは事実ですが、本当に良かったです。 |
● 原因究明
衛星は、自動車や飛行機と違って、そばへ行って、実際にモノを見て原因を究明したり、修理したり、ということができません。打ち上げたが最後、手の届かないところへ行ってしまいますので、異常があった場合には、原因はデータから「推定」するしかありません。
これまで順調だったのが、突然おかしくなったのは、やはり太陽フレアが悪さをしたのではないかと思います。太陽フレアのせいかどうかわからないんですが、太陽センサが異常な電力消費を起こしていて、電池を使いつづけていたようでした。充電が間に合わないので、どんどんバッテリの電池を使い込んでいたようなんです。それで、太陽センサの電源をオフにして、CWのフレーム送信間隔を10秒程度に変更し、消費電力を抑えたモードへと移行させました。その結果、夕方最後の18時台のパスのCWテレメトリから、充電が行われていることが確認できました。ほっとしました。
7日の朝パスのときには、正常にバッテリが充電されていることが確認され、バッテリは満タン,充電回路はオフになり、セル電圧が上昇していることが確認され、電源的には正常な状態に回復してきました。アマチュア無線家の皆さんからの暖かい励ましのメッセージは嬉しかったですね。いっしょにやってくれているんだ、という想いを新たにしました。
● 運用再開
7日の午後パスで、再度衛星のヘルスチェックをしました。これは、CWテレメチェックをしたあとで、FMパケットを数分(5-10分程度)落とし、衛星の状態を確認するというものです。結果は、嬉しいことに、異常なしだったんです。それで、パケット運用を再開することにしました。
JAMSAT-BBでは、いつもアマチュア無線家の方々が受信されたデータを送ってくださるんですが、そこにも、キュートが元気になったことを喜んでくれるメッセージをいただきましたし、直接、メールもいただきました。すごく心配してくれていたんだなということが伝わってきて、思わずジーンとしました。
証言:花清 敏夫(かせい・としお) アマチュア無線家 11月6日の早朝は、jamsat-bbも読まず何も知らずに早起きして東工大CUTE-I独自のパケットプロトコルであるSRLLパケット信号を受信しようと、てぐすねひいて待機していた一人なのですが、SRLL送信がなかったのでどうしたのかな、と気がかりでした。 CUTE-Iの電源電圧低下を確認してからの東工大・此上さんの状況説明は承知していたのですが、11月7日16時台パス後半でのパケット・テスト運用を受信した時には、嬉しさのあまりjamsat-bbに、「CUTE−Iが元気のようで嬉しい限りです」と書き記し、受信したステータスデータの一部と解析抜粋を報告しました。 そして翌日、運用予定通りの6時10分過ぎから聞こえた力強いパケット音に拍手し、東工大管制局の皆さんの奮闘に感謝し、「お疲れ様でした」とメールした次第です。 |
原因についてですが、その後、再度太陽センサを起動したら、同様に大きな電力消費が見られました。やはり太陽センサがフレアでやられたのかなとも踏んでいますが、詳細はまだ不明です。衛星バス機器の異常は特になかったので、その後は太陽センサオフの状態で運用を続けています。ただ、もしかしたら、太陽センサが復活している可能性もあるので、そのうち、また起動させてみる予定です。太陽フレアの危機も乗り切ったんですから、キュートIにはうんと長生きしてほしいと思います。
● 宇宙を甘くみてはいけない
今回のことで、宇宙を甘くみてはいけない、と改めて思いました。キュートが復活してくれるまで、やっぱり不安が大きかったです。ただ、きっと回復してくれるんじゃないかっていう、根拠のない希望もありました。ほんとに根拠はないんですが、僕はそう思っていました。
11月上旬の当時、打ち上げから4ヶ月以上たっていて、運用がややマンネリ化していたこともあり(苦笑)、HKチェック(ハウスキーピングチェックの略。衛星のヘルスチェックのこと)を多少怠る傾向にありました。後でデータをきちんとみたら、フレアが起こった10月下旬頃から、兆候は現れていたんです。でも、みんな気をつけてみていなかったから、気がつかなかったんです。フレアなんてどうってことないねって言っていた人もいたくらいでした。
このフレアのときの危機があって以来、みんながHKデータをしっかりチェックするようになりました。打上げ当初は当然のことだったのが、時間がたつにつれて、ルーティンワークになり、だんだんおざなりになっていっていったようなところがあったように思います。だから、僕たちにとっては、ある意味で、とてもいい経験になったと思っています。