理事長挨拶(2008-新任挨拶)


中須賀 真一 (Shinichi NAKASUKA)東京大学

Prof. Nakasuka

このたびはUNISECの新理事長の大役を仰せつかり、光栄に感じると同時に身の引き締まる思いで一杯です。 微力ですが精一杯勤めさせていただきたいと存じますので、皆様方のご支援のほど、どうぞよろしくお願い申し上げます。

UNISECも2002年に設立、2003年にNPO化して以来、驚くべき勢いで参加研究室数が増えてきまして、現在は160名を超える正会員・賛助会員の方々のご支援を受けながら、36大学・高専47研究室・グループ、420名を超える学生さんが参加する巨大な組織となりました。 これも、UNISEC参加大学の学生さんの目覚しい活躍が外の大学・高専の参加意欲をかきたて、それがまた次の参加を呼ぶと言う、ポジティブなループが回った結果だと思います。 「数」ではなく「質」が大事なことはいうまでもありませんが、UNISECは国の宇宙開発の中で、ある役割を担おうと主張するに足る「規模」に十分に達したと考えています。

ご存知のように、宇宙基本法が成立し、今や日本の宇宙開発は大きな転換期に入ったと言えます。 黎明期より初期の目標であった欧米へのキャッチアップを日本流の勤勉さを持って短期間に達成するまではよかったのですが、その後の宇宙開発の方向性を明確に確立せぬままプロジェクトを乱立させ、また利用の側面を軽視してきたことが、日本の宇宙開発にある種の停滞を生んでしまいました。 宇宙基本法は、マスコミ等では宇宙の防衛利用の道を切り開いたことばかりが注目されていますが、実はそうではなく、広い視野でビジョン・戦略を立てられる省庁を超えた組織を作り、その計画を効率的に実施できる体制を再整備することこそ主眼であると思います。 そしてその中で、大学・高専の立ち位置を示し、日本の宇宙開発にどう貢献できるか、その役割を明確化することが、今、我々のコミュニティに求められていると感じています。

UNISECのミッションは、これまで、宇宙開発に貢献できる人材育成と小型衛星や小型ロケット技術の向上、そして学生活動を通してのアウトリーチの3つでした。 これからは、人材育成と技術開発の2つに絞っていきたいと考えます。 それは、これらを真剣にすることによって、長期的な社会貢献が可能であり、結果的にアウトリーチ活動が自然にできていくと考えるからです。 「信頼性の高い、つまり現場でしっかり動く物を作れる人材と技術を育てること」の重要性を、今一度心に刻んで精進して欲しいと思います。 この基礎力がないと先端技術も砂上の楼閣、力が発揮できないことは明らかです。 ところが今、残念ながら日本は宇宙も含め様々な技術分野でその力が不足してきたといわざるを得ません。 それをもう一度整備しないと「技術立国日本」などありえない状況なのです。 そして、UNISECの大きな目的は、まさに、そのような物作りの基礎力を身につけた人材を育成し、技術を洗練する場であり、その立ち位置で、日本の宇宙開発に、あるいはそれ以外の技術分野にも、今まさに必要とされる貢献を果たすことができると考えるのです。

そのための方策は何でしょう。簡単に答えは見つからないでしょう。また、答えは一つではないでしょう。 それを各大学・高専ごとにぜひ考えてください。それぞれなりのやり方を見つけてください。 おそらく共通して大事なことをいくつか挙げるとすれば、たとえば、文書化をきっちりしよう、研究室内での先輩から後輩への技術の伝承をしっかりしよう、先端的なものを最初から狙わないで確実に動く物を作るところからスタートしよう、そして、良い失敗をして、それを二度としないように徹底的に解析して次につなげよう、などでしょうか。今一度、それを地道に探る努力をUNISEC全体でやりましょう。 そのために、しっかりとしたマネジメントの下でプロジェクトを進め、安全性も考慮に入れ、現場で確実に動くシステムを作ったチームを心から賞賛するカルチャーを今一度UNISECの中に確立しようではありませんか。

大変残念なことに、このような大事な「もの作りの基礎力」は学会活動の中では軽視されがちで、開発における苦労や工夫を論文にしようとしても、載せてくれるジャーナルがなくて苦労されている学生さん、先生がたくさんいると思います。 しかし、学会で取り上げられないから学問のレベルが低いとは思わないでください。 それならば、いっそ、このUNISECがそのメッカになろうではありませんか。 各大学・高専なりに考えて実施した成果、失敗を整理し、お互いに公表・交換することで、もの作りの知見、経験、本質についての理解をUNISEC内に醸成していきましょう。 個々の学問分野とは当然違う、また、欧米から輸入したシステムズエンジニアリングとも違う、大学・高専流「実践的もの作り工学」ともいうべき学問領域をUNISECより発信していきましょう。 UNISECの大きな強みは、実施例には事欠かない点ですから。

UNISECは従来、大学や高専が集まる一つの「場」として、緩やかに連携することを旨としてきました。 「連携」よりも「競争」を重んじてきたといえるでしょう。 これは、まずは、各大学・高専ごとに一度は自分で衛星なりロケットのシステム全部を作ってみて、難しさも含めいろんなことを感じて欲しい、というスタンスの表れです。 今後も大学・高専ごとの独自性を守る考え方は変えないつもりですが、せっかくこれだけの大学・高専が集まっているのですから、その集まりが有機的な価値を生むような、いくつかの新しい動きも起こしたいと考えています。 上記の「実践的もの作り工学」面での連携、これは、オンラインジャーナルのようなものを作ったり、もの作りの本質につながるような議論ができる場を設けたりすることを考えましょう。 また、金星に向かうPlanet-Cのピギーバック衛星として小型衛星の共同開発計画を進めていますが、これは、各大学の特徴ある技術力をうまく統合してより高度な衛星を共同開発し、UNISECの技術レベルを高めると同時に、UNISECの存在を強く世間にアピールしようという試みです。 そしてこれらの活動を通して、UNISECが日本の宇宙開発において一つの重要な「機関」としての立場を確立できるよう、国に強く訴えていきたいと考えています。

UNISECのような組織は世界にはありません。 これだけの学生さんが同じ思いで宇宙工学に打ち込んでいる組織も例を見ないでしょう。 ご支援いただいている会員の皆様に、「支援してよかった、自分の人生の一部にUNISECがあってよかった」と言っていただけるような活動を展開し、みなさんでいっしょに、このUNISECを日本の宇宙開発になくてはならない存在にしていこうではありませんか。