周波数の壁 語り手:占部 智之 (うらべ・ともゆき)
● 周波数の壁
このプロジェクト全体で、間一髪とか、ぎりぎりだったことは数多くあって、周波数取得もその例外ではありませんでした。
無線免許申請は総務省に対して(実際は、関東総合通信局というところを通して)行うのですが、当初は「説明を聞く限り、CubeSatがアマチュア無線帯を使用することは適切でない」と返答されました。何事もそうですが、規模が大きくなるにつれて「前例がない」ということが一番の大きな壁になります。その返答を受けて僕たちは、「もしも免許なしで打ち上げたらどうなる?」とか「アメリカに衛星を売って向こうで免許取ってもらうのはどうか?」など議論を交わしつつも結論が出ないまま、途方に暮れていました。
● 新聞記事の波紋
そんなある日、某新聞に"大学発衛星CubeSat、打ち上げ間近!"の記事が出たんです。当時、CubeSatはマスコミから徐々に注目を集めつつあったので、新聞、テレビなどに取り上げられる機会が少しずつ増えていました。でも、その新聞記事が出た日の午後、関東総合通信局から研究室に直接電話があったんです。
「あの衛星の免許はどうなっているんですか?」と。
たまたまその記事をご覧になった役所の方がおられて、先方でも話題に上り、問い合わせが来たという訳です。突然の電話にびっくりしました。それからでした。話がトントン拍子に(とまではいきませんでしたが)進むようになったのは。その一週間後には総務省を訪問し、CubeSatの概要、希望する周波数、今後のスケジュールなどについて説明しました。その結果「アマチュア局として免許を与える方向で検討していきたい」という方針になったんです。
● 急展開の免許申請
今まで閉ざされていた門が、マスコミによって一気に開かれた印象でした。(実際はJARLの近藤さんなどが地道な調整をしてくださったというのもありますが、きっかけはマスコミだったと言えると思います。)良くも悪くもマスコミの影響力というのは大きいというのを肌で実感した出来事でした。上記の方針が決まってからも大変は大変でしたが、関係者各位の情熱とご尽力のおかげで最終的には免許を取得することができました。
総務省の担当者の方は、所謂お役所なイメージとは全く異なり、非常に柔軟かつ積極的に対応して下さいました。2、3年で部署を移る官庁に身をおいても、その時のご自分の仕事に全力を注ぐ気概を感じました。JARLの近藤さんは、精力的に僕たちと総務省の架け橋的な役割を果たして下さいました。おそらく一番走り回っていただいたのではないかと思います。白子さんは免許関連に限らず多岐にわたるアドバイスを頻繁に下さいました。白子さんは謙虚な方で、毎回、"老婆心ながら・・・"と言われるのですが、経験のない僕たちにとっては貴重なアドバイスばかりでした。
JAMSATの武安さん、岡本さんにはIARU Satellite Advisorを紹介していただき、アマチュア無線の国際調整にご協力をいただきました。航空高専の若林先生には、申請時に必要な各種測定のために、電波暗室を何度もお借りしました。そして何よりも東大の中須賀先生、永島さんの精力的な活動に引っ張られる形で何とか免許獲得まで漕ぎつけることができたのです。
● 信頼の大切さ
この免許獲得の一連のイベントにおいては、手を動かす衛星開発とはまた一味違った経験をすることができました。人と人とのつながり、信頼関係というものが良い意味で非常に重要だと認識しました。社会のルールってきっとその境界が曖昧なんだと思うんです。それをどう解釈していくかは関係者の信頼関係によると思いました。
何はともあれ、手のひらの上にちょんと乗っかるくらいのわずか1kgのCubeSatを打ち上げるために、本当に多くの方が情熱を注いでくださったわけです。関係者各位、各々の想いがあったのかもしれません。このように開発者以外にもたくさんの人の想いを載せて、CubeSatは今も軌道上を回り続けています。わずか手のひらサイズでも、宇宙に上がるというだけでたくさんの人を巻き込むそのパワー。これからの日本の宇宙開発は、そういったパワーをどうやって引き出していくか考えながら進めていくと面白くなると思います。
|